10万部突破のロングセラーが絵本に!
しのぶくんは、小学校の授業参観でおとうさんの仕事をたずねられて……。坂本さんの実体験が、いのちをいただくことの意味を、問いかけてきます。
・原案/坂本義喜さんからのメッセージ
この話は、今から二十数年前に、私が実際に体験したことです。それまでは、自分がやっている食肉解体業は、運ばれてきた動物たちを肉にする仕事でしかありませんでした。みいちゃんを解く日の朝、初めは威嚇してにらんできたみいちゃんが、寄ってきて、私の手をなめてくれました。そのとき、運ばれてきた牛を初めてかわいいと感じました。そして、自分のやっている仕事の意味が分かったのです。――俺の仕事は、この子たちが少しでも楽な気持ちで天国に行けるようにすることなんだ。その後、この子たちの不安な気持ち、死にたくない気持ちを知ってほしいと思い、息子の学校で話をしました。これが、講演活動のきっかけとなり、この作品がうまれるおおもとになりました。
・作/内田美智子さんからのメッセージ
ある小学校の体育館で、自分の講演の準備をしているときに、子どもたちへ「おっちゃんはね」と静かに語りかける坂本義喜さんに出会いました。はじめは、何気なく聞いていたのですが、だんだん坂本さんの話に引きこまれ、最後はハンカチをにぎりしめ、嗚咽が漏れるほど泣いてしまいました。この話はたくさんの子どもたちに伝えたい。いや、子どもたちだけでなく大人にも伝えたいと思い、その日のうちに文章にまとめ、後日、本にしてほしいと出版社などにお願いしました。坂本さんの語る命のいただき方は、多くの人に知ってほしいと思いました。坂本さんの温かな人柄にひかれて心が動き、本にするという行動になったのだと思います。まさに奇跡の出会いでした。
・絵/魚戸おさむさんからのメッセージ
絵本を出版することは、十代からの夢でした。その夢を、紙芝居で描いた絵で実現できないかと数社にかけあいましたが、さすがに思い通りにはいきません。しかしあきらめきれずにいたところ、思いがけないご縁から、こうして僕の夢は実現しました。この絵を描くにあたっては、スタッフ(ゆかいななかまたち)の活躍なしには実現しませんでした。着色には、小学生が授業で使用するのと同じ絵の具と色鉛筆だけしか使っていません(というと、みなさん驚かれます)。この絵本を通して、多くのみなさんに、ふだん食べているものすべてに命があったことを思うきっかけにしていただければ、作者冥利に尽きます。
坂本義喜(さかもと よしき)
食肉解体作業員。1957年、熊本県生まれ。この作品に出てくる一頭の牛との出会いで、自身の職業観や生命観が大きく変わる。子どもが通っていた小学校の先生からの依頼で、屠畜の仕事について、そしていのちをいただくことについて話したことがきっかけで、九州を中心に、学校や屠畜関係者などに向けて講演活動を続けている。
内田美智子(うちだ みちこ)
助産師。1957年、大分県竹田市生まれ。国立熊本病院附属看護学校、国立小倉病院附属看護助産学校助産師科卒業。1988年、福岡県行橋市にて、産婦人科医の夫とともに、内田産婦人科を開業。文部科学省委嘱、性教育の実践調査研究事業委員を務め、講演活動も続ける。著書に、『ここ 食卓から始まる生教育』『いのちをいただく』『紙しばい いのちをいただく』(すべて共著/西日本新聞社)などがある。
魚戸おさむ(うおと おさむ)
漫画家1957年、北海道函館市生まれ。漫画家の村上もとか氏、星野之宣氏に師事し、1985年、「忍者じゃじゃ丸くん」でデビュー。作品は、『家裁の人』(毛利甚八・作)『がんばるな!!!家康』『玄米せんせいの弁当箱』(北原雅紀・脚本/すべて小学館)など。現在、「ビッグコミックオリジナル」(小学館)にて「ひよっこ料理人」を連載中。ゆかいななかまたちは、魚戸の創作を長年支えるスタッフたち。
この作品は、まるで“わらしべ長者”のような作品です。くわしくは、本の「あとがき」をご覧いただきたいのですが、単行本→紙芝居→絵本と、3つの形態で世に出ている、希有な作品です。西日本を中心に、単行本は4年で10万部超、紙芝居も異例のヒットを続けています。フィクションだとしたら、陳腐に映るかもしれません。しかし、坂本さんの職業観や生命観を変えてしまった、実体験に裏打ちされた強さを持つ作品です。単に「かわいそう」とか、「ありがたい」とか、「感謝しろ」といったことを超え、矛盾のなかでわたしたちのいのちが生かされていることを教えてくれます。(関サバ子)
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