第33回講談社絵本新人賞受賞 
定岡フミヤの制作日記
第5回「ダメ出しはディナーのあとで」

こんにちは。すっかり春ですね。
遠くに住む兄から、入園したばかりの姪の写真が送られてきます。
泣かずに登園しているものの、「たんぽぽ組」と上手に言えず「たんぽこ組」になってしまうのだとか。

―前回の続き―
デザイナーさんとの打ち合わせまでに表紙のラフを用意しなくてはいけないのに、なかなか決まりません。
私が自信満々で提出した一枚も、「定岡さん、編集部で不評です! ついでに言うと販売部でも不評です!」と言われるデザインセンスの無さ。
前日までに4案出して全部ダメでした。
とにかく本を手に取ってもらえるような表紙にすることが大事とのこと。難しいです……。
「当日は新幹線の中でも描きながら来てください」と言われ、車酔いしながら絵を描き、写メを撮って送信すると、「この方向でいきましょう!」とようやくOKが。
“表紙は描けば描くほど変になっていくけど、最終的には一番いいタイミングで出るよ”と某先輩受賞者に励まされていたのですが、とても最上のタイミングとは言えません。
制作中は段取りが悪かったり、ペース配分を間違えたりと、反省することだらけです。
でも今回ばかりは許してください、新人だもの。

打ち合わせは横浜市内の喫茶店にて。本をデザインしてくれるのは、羽島一希さんです。
まずは作品に目を通してもらい、書体や印刷の希望を伝え、原画のチェックを行います。
そして、さっき決まったばかりの表紙について意見を伺ったところ、
「これさ、表紙と前袖の絵をつなげて描いちゃえば?」と目からウロコのアドバイスを頂きました。
そして、担当さんからは帯のキャッチコピーを見せてもらいました。
5つ並んだ候補の中で、デザイナーさんと私が「あっ」と同じ一文を指すと、
「それはさっき写メで送られてきた絵を見て思いついたんです」と担当さん。
これで、ものすご~く気になる表紙と帯が出揃いました。


打ち合わせの後は、少し雑談。
そこで、書店員さんの感想が書かれた紙を見せていただきました。
最終ラフの段階で書店員さんに読んでもらって、その感想がFAXで送られて来たのだそうです。
雑誌でよく拝見するカリスマ書店員さんの名前も発見。
「あ、その人するどいですよ~……。僕、会う度にドキドキしますもん……」と長身をすくめる担当氏。
なるほど……授賞式でお見かけしたら隠れよう……。
感想には温かい言葉あり、ドキッとするような鋭い指摘があり、意見をいただけるのは本当に有難いと感じました。

その後、2週間をかけて表紙、背表紙、裏表紙、見返し、後ろ袖の絵を描き、3月末に完成!
お、終わりました~……。

ついに完成した表紙原画。

そして、こちらがデザイン後の表紙。
5月発売らしく爽やかな印象です。

半年ぶりに生活に余裕ができ、夕食後にマツコの新刊を読みながら一服していると、不吉な着信音。
この時間帯は担当さんに間違いない。着信画面に『講談社』と表示されて胸が高鳴るのは最初の方だけで、あとはも「またダメ出しでは……」と戦々恐々しながら電話を取らねばなりません。
案の丈、「印刷にうまく出ない場合は、原画の修正が必要かも」との連絡でした。
やっぱり……そんなにスムーズにいくはずがないんだ……。
しかし、それに続いたのは、

担当さん 「ジュンク堂さんから原画展のお話がきましたよ~」
私 「えっ、いつからなんでしょうか?」
担当さん 「先方のご希望としては、5月の19日あたりなんですが…」
私 「あれ? 絵本の発売は下旬ですよね?」
担当さん 「そうなんです。このままだと、発売してないのに原画展が始まることになるんです」
私・担当さん 「…………………。やっばーーーーー!!」

というわけで、現在、急ピッチで校正のチェックが行われています。
担当さんが宅配便で送ってくれた初校を見て、初めて羽島さんがどうデザインしてくれたのかを知りました。
え~見返しってこんな色なんや~、うわ~効果音ってこんな位置にくるん~!? ほんとにおもしろ~い……って、面白がってる時間はないんです!
原画と比較し、気になるポイントを書き込んで、すぐさま送り返さなくてはなりません。
これまで、遠方に住んでいることのハンデと言えば、「近くにお住まいなら制作日記は私が書くんですけど、遠いですからね~。ご自分で写真を撮って書いてくださいね~、ふっふっふ」と担当氏に頼まれたことくらいだったのですが、原画完成以降の作業になると、地方在住はかなり不便です。

原画の色を出すことはかなり難しいらしいのですが……印刷屋さん、色々とご無理を言ってすみません。

事細かに書かれた定岡さんの指定。
当たり前のことですが、作品に対する愛が伝わってきます。

表紙の入稿も終わったそうなのですが、私はまだ見ておりません。
一体どんな表紙にデザインされたのでしょうか?
もし、更新に間に合えば、少しだけご紹介できるかも!
その全貌は、次回の制作日記最終回にて!

(続く)

定岡フミヤ(さだおか ふみや)

1979年生まれ。立命館大学卒業。絵本ワークショップ「あとさき塾」出身。
本作品で、第33回講談社絵本新人賞受賞。

講談社の創作絵本
『シールのかくれんぼ』 定岡フミヤ/作

おもちゃ箱の中から、使っていないシールを見つけたなおきくん。お母さんに止められていたのにも関わらず、思わず壁にシールを貼ってしまいます。楽しくなったなおきくんが、ついつい全てのシールを貼ってしまったまさにそのとき、「なおちゃーん」とお母さんがやってきます。我に返ったなおきくんは、大慌てで壁に貼りつき、必死でシールを隠そうとするのですが……!? 第33回講談社絵本新人賞受賞作品。

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