第42回(2021年) 講談社絵本新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2021.11.09

  • 木坂涼 先生

    新人賞に決まった『タコとだいこん』は、ある日、タコが「だいこんたべたい」と思うところから始まる。どうして大根だったのかは分からない。必然性を問わずとも、ぽーんと読ませる力があり、場面の構図も色合いも、潔い簡潔さが光る。『じごくの2ちょうめ5ばんち9ごう』は、意味深なページ運びが効果を生んでいる。ラストがしり切れトンボのようになってしまったのが惜しまれた。『ハンバーグたべて~』は、ハンバーク愛に満ちた作品。ハンバーグを口にした時の「さいこう」具合を、もう少し独自の言葉で語ってほしかった。応募作品全体の感想は、毎度のことながら、絵の完成度の高さに目を見張った。「文」の方は「筋」に終わってしまっていないか。そう思わされる作品が少なからずあった。物語としての言葉、「感じる」という余韻。絵本作りでこれも大切にしたいこと。
  • はたこうしろう 先生

    最優秀の『タコとだいこん』は画面をつくるセンスが良く、絵はシンプルだが想像を喚起させる。民話のような奔放さがあり、終盤、心地よい着地があったが、もっと豪快に描けば開放感が倍増するだろう。佳作の『じごくの2ちょうめ5ばんち9ごう』はホラーサスペンス絵本と言うべきか「怖さ」を楽しませてもらった。手を抜かず描かれた絵も効果的だったが、痛い絵を描かずに「怖いけど楽しい」を表現できればもっと良かった。『ハンバーグたべて〜』はオチまでぐいぐいと引っ張られる構成が良い。説明的な文を精査すればずっとよくなると思う。読後、食べ方の流儀は「人それぞれで自由なのだ」という哲学が感じられるのが良い。3作品とも独特の視点が面白かったと思う。
  • 松成真理子 先生

    新人賞の『タコとだいこん』は言葉、絵、共にシンプルで強く、あざとさのないナンセンスのヌケ感が秀逸でした。今回は物を擬人化した作品も多く、物を生命あるものとして表現することは難しいですが、ページ数以外は何でもありの絵本の世界は、読み手に響けば良いのです。食べ物のテーマでは、おいしそうなことが大事。佳作の2点は1冊の絵本の土台となるストーリー展開が練られていること、絵と向き合う真面目さ丁寧さで、最終まで残り続けました。どこにもないお話を探して見つけて、それぞれの色で線で糸で絵具で言葉を紡ぎながら創る絵本の楽しさ。言うのは簡単、実行は大変。がんばったすべての作品たちに拍手を贈ります。ちょっとだけ休んで、続けて行くこと。たぶんそれが創作のコツです。
  • 村上康成 先生

    ●『タコとだいこん』、奇をてらうことなく奇であり、タコの魔性的魅力のリアリティで、潔くナンセンスが通り抜けた一作。タコの心情と同様に心地よさに包まれた。画面的には文字ページの黒とあいまって、夜の港の表現は息を飲む。闇の色と月あかりの青、すーっと伸びた赤いタコの足、間と緊張が美しい。ただ、表紙を含め後半の描き方など、惜しいところも抱えている。●『ハンバーグたべて~』、定点観測の厚盛の描写を引力に、ページをめくらせた。肝心のおじさんの納得の食べっぷりの描写が見たかった。●『じごくの2ちょうめ5ばんち9ごう』、おどろおどろしい描写にそそられるが、オチの安堵感の描写はもの足りない。※選外含め総論として、絵本を作り上げたつもりでも、100回でも開いてみたいと思う作品かどうか。手がけている絵本の魅力にもっと迫ってほしい。
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