子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第14回 子どもがうるさいと苦情を言われました。



Q:
4歳1ヶ月と2歳8ヶ月の兄弟です。集合住宅に住んでいるのですが、テンションが高く、大声で怒鳴るようにしゃべり、いつも2人で家の中を走り回っています。

男の子で元気がいいのは良いことと思いますし、子どもはそういうものだと思っていたのですが、近所から苦情を言われてしまいました。特に階下の人は、足音がうるさいといいます。

子どもに口を酸っぱくして「静かにしなさい!」「走ってはダメ!」と言い聞かせても、全く効果がありません。また苦情が来たらどうしようとびくびくして、子どもに怒ってばかりです。

引っ越すのも無理なのですが、モンテッソーリで考えると、こんな悩みについても何か良い方法が見つかるのでしょうか。





A:
子育て中は、ご近所にも気を遣いますね。昔は同じ集合住宅にたくさん子どもがいてお互い様と言い合えたり、子育てを終えた人からは「うちの子も昔はそうだったから気にしないで」と言ってもらえたりすることもありました。

今は少子化で、社会全体がピリピリしている感じがありますから、子育ては本当に大変だと思います。近隣トラブルのうち、騒音に関するものがもっとも多いそうですし、深刻な問題に発展するケースもありますから、お気持ちはよくわかります。

まずは、簡単にできそうな物的な環境から整えてみましょう。フローリングなど、階下に音が響きやすい床の場合は、防音マットを敷いてみるといいでしょう。コルク素材は効果が高いそうです。ジョイント式のものもありますから、必要な部分だけサイズに合わせて敷くこともできます。防音カーテンも、家の中から外への周波数の高い音については、一定の効果があるようです。


▶静かにするとは?


次に、子どもを怒らないで静かにしてもらう方法を、モンテッソーリで考えてみましょう。

当連載の第4回で、モンテッソーリ教育では、提示(提供)というプレゼンテーション、つまり「やってみせる」ことで子どもに「やりかた」を伝える、とお伝えしました。逆に考えると、子どもが大声で怒鳴るようにしゃべる、というのは、もしかしたらいつも怒鳴っている大人を真似ているのかもしれません。

「静かにしなさい!」と注意する声は、静かにすることはどういうことなのかを、子どもに伝えているのでしょうか。

ある会員の方が実践なさったレポートが大変素晴らしいので紹介しておきましょう。


「家の中では大きな声を出さない」ということを教えるために、私はまず、とても大きな声を出して「これはお外の声。家の中ではこんな大きな声を出さなくても聞こえるでしょう。それに、狭いところで大きな声を出したらママの耳が痛くなります。」と言いました。次にとても小さな声を出して「これはお家の中の声。小さくても聞こえるでしょう。」と続けました。そのおかげで、家で次男が大声を出すと「それはお外の声だよ。」と長男が注意してくれるようになり、次男も次第に理解して、小さな声で話すようになりました。
(4歳6カ月男 1歳8カ月男の母)



いかがでしょうか。これが実際に具体的にやってみせることで子どもに伝える「提示」という方法です。

走り回ることについても、全く同じです。こちらも会員の方のレポートで回答しましょう。


下の子が家の中を走るので、「ドンドンしてはいけないよ。」と繰り返し教えていたのですが、わかってくれませんでした。そこで、まず私がゆっくり歩いて見せ、その後、夫がゆっくり歩いて見せると、子どもはすぐにその歩き方を覚え、家の中を静かに歩くようになりました。この出来事は本当に衝撃とも言える驚きと感動でした。上の子のときは、言葉だけで教えていましたが、あまり効果はなく、きっと、ドンドンする、という言葉の意味もわかっていなかったと思います。(4歳8カ月男 2歳4カ月男の母)


なにごとも、やめてほしいことを言葉で言うのではなく、やってほしいことを実際に「提示」すればいいのです。


▶子どもの自律を育て、自己コントロールを促す


子どもに静かにしてもらうためには「自律」に関する理解も大切です。同じ「じりつ」でも「自立」についてはよく触れられますが、「自律」についてはあまり理解されていないことが多いようです。

自律とは自己を律する、つまり自己コントロールをするということです。モンテッソーリ園に入園すると、机や椅子にぶつからないように、また絨毯などを踏まないように歩く練習をします。「線上歩行」といって線の上を、つま先にかかとをつけて歩く練習もあります。ただ歩くだけではなく、物を持って歩くこともあります。さまざまな方法で、自分で意識して体の動きをコントロールすることを学ぶのです。

つま先にかかとをつけて歩く 線上歩行

当連載の第5回では、子どものための整えられた環境について紹介しましたが、いろいろなものが過不足なく準備されたトレイや籠を、子どもは自由に選んで自分で運びます。そのときに落としたり、こぼしたりしないよう、意識を集中して自己コントロールしながら運びます。

棚からトレイに載っている道具を運ぶ子ども

水の入った花瓶を注意深く運ぶ子ども

やみくもに走り回っているときは、自分の体が調整できていませんが、こうした意識的な運動をしている子どもは、体だけではなく心もコントロールすることができるようになります。本能に従うだけの状態から、こうした経験を重ねることで自己抑制ができ、「自律」できるようになっていくのです。

ご家庭でも食事の準備のときなどに、大人がさっさと配膳するのではなく、お盆や籠を使って1つずつ運んでもらうといいでしょう。

経験がないお子さんにいきなり水の入ったコップをお盆で運ばせるのは難しいと思いますので、最初はカトラリーや空の器などから始め、だんだんとステップアップしていきます。その過程で心と体が同時に育っていき、そのうちなんでも運べるようになります。

手付きの籠に木製のカトラリーなら1歳児でも運べる

持ち手のついた縁のあるトレイに空の食器

「静かにさせる」ことと一見関係のない、こうした練習が、子どもの自律を育て、自己コントロールを促し、結果的に「静か」に過ごすことにもつながっていくのです。


▶子どもが静けさの素晴らしさを知り、自ら保とうとする


最後にモンテッソーリの「静粛練習」について述べておきましょう。「静粛練習」と言うと、騒がしい子どもを静かにさせるための練習だと思われるかもしれませが、そうではありません。モンテッソーリがこれを始めるきっかけとなったのは、赤ちゃんを教室に連れてきたことでした。

すやすやと眠っている赤ちゃんを見せて、モンテッソーリは子どもたちに「こんなふうに静かにできるかしら。」と言ったところ、子どもたちは自分たちの意志で息をするのも抑えて、真剣に、そして静かにすることを楽しんだのです。

またモンテッソーリは、子どもたちの名前を聞こえるか聞こえないかくらいのかすかな声で呼び、呼ばれた子どもから部屋を出ていくといったこともしてみました。最後の子どもが部屋を出るまでには長い時間がかかりましたが、その間、誰も静粛を破る子どもはいなかったのです。

こうしたことからモンテッソーリは、これまで騒がしく落ち着きがないと思われていた子どもは、深い集中と高い精神性を持って静けさを愛する存在であることを発見したのです。

「静粛練習」にはいろいろなバリエーションがあります。たとえば目をつぶって一定時間、耳を澄ませて音を聞き、どんな音が聞こえたか言ってみることから始めることもできます。またベルを鳴らさないように注意しながら、隣の人に受け渡したり、鳴らさないで歩いたりするのも、子どもは大好きです。

ベルを鳴らさないで相手に渡す

不規則な膨らみを持つトチの実を金属製のお皿の上に音をたてずに置くといったゲームのような楽しい方法もあります。トチの実が手に入らないなら、食器を音をたてずに置くことに挑戦してもらうのもいいでしょう。

トチの実をそっと置く子どもと見守る筆者

子どもはとても真剣になり、集中して自分の意志で動きと心をコントロールしようとします。コトリとも音がしないように置けたら「静かだったね。」と言ってあげましょう。

また雨の日に窓を開けて雨音に耳を傾けたり、秋には虫の音に耳を澄ませたりすると、静けさを楽しめるようになるでしょう。騒がしいときに静かにさせようとするのではなく、子どもが静けさの素晴らしさを知り、自らその静けさを保とうとするのが「静粛練習」なのです。

このようなことを通して心と体を育てていけば、子どもにイライラしたり、怒ったりせずにすむばかりか、ご近所からの苦情におびえることもなくなるのではないでしょうか。


▶自分も大切、相手も大切


苦情をおっしゃった方とは顔を合わせたくない、会ってしまったときも気まずい感じがあるのは当然です。

でも、そうしたときこそ人としての接し方を提示するチャンスです。にこやかに「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません。」と積極的に声をかけましょう。そうすれば、相手の方も「いいえ、最近は気にならなくなりました。」と言ってくださるかもしれません。

人間は一人で生きていくことはできませんし、社会ではいろいろな人と協調し、折り合いながら生きていかなければなりません。苦情を言われたことをマイナスに捉えるのではなく、そうした場合にもどう対応していけば、お互いに幸せな暮らしができるのかを見直す良い機会と捉えましょう。

「自分も大切、相手も大切」というのがモンテッソーリの基本的な考えなのです。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 






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