子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第16回 専門家でないと、無理なのでしょうか。



Q:
2歳10ヶ月の女の子です。モンテッソーリについて最近知り、子どもの自立する力を育てるという点に大変に興味をもちました。さっそく自分の子にも試してみようと思いましたが、私が提示をすると、子どもは「やりたいやりたい!」とすぐに手を出してきて、提示をみてくれません。案の定、やり方を見ていなかったので上手にできず、すぐに諦めてしまいます。

興味のあることを教えてあげようとしているのですが、親だと甘えて、自分でできることでも「ママがやって」になってしまいます。

モンテッソーリ教育はやってみると難しく、親ではなく専門家でなければ無理なのでしょうか。毎日通うモンテッソーリ園には入れることができませんが、せめて週1回でもモンテッソーリ教室に入れた方がいいのかしらと悩んでいます。




A:
質問者さんがモンテッソーリ教育に出会えたことを嬉しく思います。モンテッソーリ教育に出会うと、多くの方が感動し、ご家庭でお試しになります。すぐにうまくいく場合もありますが、なかなかうまくいかない、というご相談もたくさんいただきます。

「餅は餅屋」ということわざもあるくらいですから、専門家に任せるのが一番という考え方にも一理あります。最近は子どもの教育についても、その考え方をあてはめて、英語は大事だから英語教室、音楽も必要だからピアノ教室、運動もさせておきたいから体操教室と水泳教室、という具合に、多くの習い事を低年齢からさせている方も増えているようです。

モンテッソーリ教育についても、その道のプロ、きちんとしたモンテッソーリ教師の資格を持ったベテランの教師に預けてしまったほうがいいのでしょうか。


▶生活すること、生きることそのもの


これについて述べる前に、モンテッソーリ教育とは何かという原点に戻って考えてみる必要があります。

モンテッソーリ教育については、最近になって知名度がアップし、マスコミから注目を集めたり、さまざまな書籍が出版されたりしています。ただ、多くの情報が氾濫する中で、モンテッソーリ教育とは、「教具」「提示」「お仕事」であると考えている人が大半になってしまっているのではないかと感じています。
 
質問者さんも、提示をしてみたけれどうまくいかなかったとおっしゃっていますから、いくつかの書籍をお読みになり、ネット上のブログなどから情報を得て、試されたのでしょう。

もちろん提示は、当連載の第4回でも触れたように、モンテッソーリ教育において子どもにやり方を伝えるために、とても優れた方法です。また教具やお仕事も、他の教育方法にはない重要な部分であることは間違いありません。

もしも、モンテッソーリ教育が「モンテッソーリ教具を準備し、大人が提示をし、子どもがそのままそれをお仕事としてすること」であるならば、週1回1~2時間のモンテッソーリ教室に通わせて、プロの手にお任せするのも、それなりの意味があるでしょう。

ただ、残念ながらそれだけではモンテッソーリ教育とは言えませんし、自動的に自立した子どもになってくれることはまずありません。なぜならモンテッソーリ教育とは、生活することであり、もっと言えば生きることそのものだからです。

ですから、私が監修した本のタイトルは『こどもせいかつ百科』であり、目次をご覧になるとおわかりになりますが、朝起きてから夜寝るまで、どのように子どもを援助していくか、が描かれているのです。


▶日々の生活の中で実践する大切さ


モンテッソーリ教育には5つの分野(領域)がありますが、すべての土台となっているのが「日常生活の練習」という分野です。モンテッソーリは「日常生活の練習」について、著書の中で以下のように説明しています。

「子どもの家」では、ほんとうの日常生活が繰り広げられるからです。ここでは家事がすべて、子どもたちに任されます。子どもたちは「家庭の義務」に熱中し、最新の注意をもって実行し、一人一人が落ち着きと品位をそなえるようになります。 
(『子どもの発見』 マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所刊)

「子どもの家」というのは、モンテッソーリがローマの貧しい地域に初めて開いた施設の名称です。「子どもの家」の在校時間についてモンテッソーリは、冬は9時から17時まで、夏は8時から18時までという長い時間が必要であるとも述べているほど、日々の生活の中で実践するということを大切に考えていました。

 

朝起きてするタオルたたみ 3歳8ヶ月

ですから良いモンテッソーリ園ほど、保護者教育にも力を入れており、保護者対象のマザーコースや定期的な勉強会を開いています。私もいろいろなモンテッソーリ園でお話させていただく機会がありますが、園の先生方とご家庭の保護者が車の両輪のように子どもを良くサポートしていくことが、一番重要だと感じています。

残念ながらモンテッソーリ園には通えないようでしたら、やはり生活をともにするお母様が、モンテッソーリ教育についてしっかりと理解し、お子さんの援助をしていくことが大切です。

私の勉強会にいらっしゃる方の8割は、質問者さんと同じように、モンテッソーリ園に通わせたくても通わせられないという方です。最初からうまくいかないのは当たり前ですが、学ぶことでお母様方が良き援助者に変わっていかれることは、この25年間、多くの事例を見せていただきましたので、まずはご安心ください。


▶適切な提示


今回の問題点を整理すると、
1、子どもが提示を見てくれないので、結果的にできるようにならない
2、親だと甘えてしまって、できることもしない
 の2つだと思います。

まず、提示についてですが、すでにポイントなどは第4回でも触れましたので、会員の方からいただいたレポートをお読みいただくと、子どもが見てくれない理由がおわかりになると思います。


・相良先生の本などを読んで「提示」という言葉自体は知っていましたが、実際の提示を見て大変に驚きました。所作の美しさ、正確さ、無駄のなさ、空間感覚の鋭敏さ、合理的な動き。

翻って自分の提示は行き当たりばったりで子どもには大層分かりにくかったと思います。ズボンが裏返ってしまった時の直し方を提示しましたが、ゆっくりと、はっきりと、どこがポイントかを心がけたところ、子供が熱心に見て自分で行っていました。

(2歳5ヶ月男 一般保育園 0歳5か月男 )

・提示を見ないから聞いてくれないから怒るのはナンセンスですね。まずは、相手をしっかり観察して、提示の時期を見極めないといけません。

提示はただ相手に見せるという行為と思っていましたが、大間違い、とても奥深いものでした。相手のことを、こちらがしっかり見ないといけませんね。そしてわかりやすく動きを細分化して環境に配慮してから初めて「見ててね」と言えます。

(男2歳 一般保育園 0歳2ヶ月女 家庭)

・本での知識があっても最初に先生の提示を拝見したときは「は!? 何これ!?」と声が出る程驚きました。こんなにゆっくり? 信じられない…と衝撃です。

初めに提示をした時は「やる! やる!」と手を出そうとした長女も、今では「見てればやり方が分かる」事を理解しているので、じーっと見ては、こちらが確認の為ちらと見ると頷く、という真剣な様子が見られます。口癖は「まずどうするの?」になりました。

(5歳2ヶ月女 2歳10ヶ月女 一般保育園)


いかがでしょうか。提示は簡単なようでも、やはり一定の準備や技術が必要になります。見よう見まねではうまくいかないことが多々あるのです。

でも少し学べば、このようにごく普通のお母様でもしっかりとお子さんに伝えることができるようになります。提示のポイントを意識して、準備と練習をしてから提示してみましょう。


名称やお約束を伝えて視線を集中させる

子どもに見やすい位置や動かし方など提示のポイントがある

モンテッソーリ教室で素晴らしい提示が見られるのであれば、その先生から学ぶのも一つの方法です。

そのようにして適切な提示ができるようになり、同時に子ども自身が「見て学ぶ力」を身につけていけば、必ず見てくれるようにもなります。

低年齢からいろいろな習い事にひっぱりまわさなくても、本当に自分で好きなことを選び、集中してあっという間に習得するようになるでしょう。


▶良き援助者になるには


もう1つの、一人でできるのにしようとしない、「できない」「ママ、やって!」というのは、モンテッソーリ教育に限らず、日々の生活の中でよくご相談があることです。

親は、一度できるようになったことは、やって当たり前、と思っていますね。でも、質問者さんも書いてくださった通り、子どもには甘えもありますから、それが不満なのです。子どもは、いつまでも「できたこと」に感動してほしいのです。

「やって」と言われたら「ほんと? やってあげてもいいの?」と喜んでしまいましょう。

でも全部すぐにやってあげてはいけません。それは甘やかしになってしまいます。全工程を細分化して、ほんの入り口だけやってあげて、「ほら、ここまでできたよ。次はできるかなあ?」と促しましょう。

日々の生活の中にチャンスがある カレー作り 3歳5ヶ月

おうちだからできる窓ふき 2歳10ヶ月

みんなに食べてもらいたい 餃子作り 2歳5ヶ月

そして、1つできたら、「できたねえ」と共感してあげて、「じゃあ、次は?」と提示の動作を分析し、その1つずつをともにしていくつもりでやりましょう。そこで「もう、できるでしょう」となげてしまったり、代わってやってあげてしまったりしないで下さい。スモールステップで子どもはできるようになるのです。

まだ3歳にもならない子どもにとっては、小さな動きひとつでも大変なことです。「やった!」「できた!」という満足感、達成感が子どもの成長につながっていきます。

日本ではモンテッソーリ教育というと、幼児期のみの教育のように思われていますが、実は24歳までを視野に入れて確立された教育方法であり、そこには普遍的な理念があります。最近では認知症の高齢者の援助にも役立つと言われているほどです。

ですから、一番身近で一番お子さんを愛しているお母様が、提示や教具といった目先のことだけではなく、人間教育、人格の形成という深いところまで学ぶことで、お子さんの援助者となることができるのです。どうかあきらめないで、目の前のお子さんのために良き援助を続けていってください。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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