子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第20回 赤ちゃんに何をすればいいでしょうか?



Q:
生後2ヶ月の男の子です。モンテッソーリには0歳からの教育があると聞きましたが、赤ちゃんに何をすればいいのかわかりません。0歳からでもできること、また3歳までにしておいたほうがいいことを教えてください。


A:
赤ちゃんは本当にかわいらしいですね。この子のためならなんでもやってあげたい、という気持ちはとても大切ですし、それがなければ育てられません。
多くの方が、赤ちゃんを育てることは、衣食住の世話をすることと考えています。妊婦さん向けの母親学級の内容も、栄養や授乳の注意点や沐浴の実習などがほとんどです。もちろんそれらは欠かせないことですが、単に身体の世話することと捉えてしまうと、問題があります。

モンテッソーリは「人間は大学で成長するのではなく、誕生時から精神を発達させ始め、生涯の最初の3年間に最も飛躍的に発達させる」(『子どもの精神―吸収する精神―』マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所刊より)と述べています。

つまり人格が育ち始めるのは誕生直後からであり、そのための教育が必要であるとモンテッソーリは考えていたのです。35歳と38歳にそれほど大きな違いはなく、時には見分けがつかないこともあります。いっぽう、0歳児と3歳児は見た目も違いますが、内面的にも全く違います。肉体的な成長とともに、精神的な成長もこの時期が人生でもっとも著しいのです。

しかし、0歳児は言葉を話せませんし、歩くことはおろか最初の数ヶ月は身動きもままならない状態です。こんな赤ちゃんを、どうやって教育するのでしょうか。
そのポイントとなるのが、前出の著書のタイトルにも含まれている「吸収する精神」です。吸収精神とは、環境を吸収して自分のものにしていく、大人にはない特別な能力を指します。特に0歳から3歳では無意識の吸収精神と呼ばれ、子どもは環境にあるものを丸ごと取り込み、人格を形成していくと言われています。ですから、子どもの発達段階に応じて、必要なものが十分に整えられている環境を準備することが重要になります。


▶視覚の発達


赤ちゃんは、今、どのような発達段階にあり、何を成長させようとしているのか、それに応じるためには何が必要なのか、0歳から3歳で急激に発達する4つのことに、着目してみましょう。

ひとつめは感覚器官、特に視覚です。新生児の視力は0.01~0.02くらいで、明暗がわかる程度です。色の区別はつきませんが、黒白はわかるので、モンテッソーリ教育ではムナリ・モビールと呼ばれるものを、赤ちゃんの目から約30cmのやや前方に誕生後から吊るします。


ムナリ・モビールを見る赤ちゃん

30cmというのは、授乳時のお母さんと赤ちゃんの目の距離で、そこが赤ちゃんが一番見たい場所だからです。授乳時には、赤ちゃんの目を見つめてあげることがとても大切です。視覚を発達させるだけではなく、赤ちゃんはお母さんと心の交流も求めているからです。
2~3ヶ月頃からは色がついたものも見えるようになるので、色付きのグラデーションのゴッビ・モビールというものに変えます。

ゴッビ・モビールを追視する赤ちゃん

モビールは動きが自然でゆっくりなので、機械で動くものとは違って追視することができますし、首を上げたり回したりする運動にもつながります。手で触るようになったら、少し遠ざけるか、触っても大丈夫な木製素材のモビールに変えましょう。
その後は自分の動きにも興味が出てくるので、鏡を設置しておくととてもよく見ています。

鏡を見てボールを蹴る赤ちゃん

キッキングボールという布製のボールを足の届くところに吊るしておくと、ちゃんと狙って蹴るようになることに驚かされます。中に鈴が入っているので、自分が起こした行動で音が聞こえるということもわかってきて、自らやってみようとするのです。
視力は2歳までの発達がもっとも急激ですから、特にその時期には狭い視野や平面の画面ではなく、具体物や自然の景色を見せてあげましょう。モンテッソーリは揺らぐ木々や花、鳥などを赤ちゃんに見せてあげることを奨励していました。こうして赤ちゃんは、広いこの世界をどんどんと吸収していくのです。


▶運動器官の発達


ふたつめ、大変重要なのが運動器官です。仰向け寝から寝返り、ハイハイ、つかまり立ち、歩行までを1年余りでしてしまうのです。子どもには自己教育力があることがよくわかる例です。
それぞれの時期に適切な援助ができるような環境があります。仰向け寝の時期には、主に手でつかむものが必要です。「ガラガラ」は一般的ですが、握りやすい素材やリボンに輪を付けて引っ張るものがお勧めです。


輪とリボン

ハイハイの時期には広いスペースとともに、床の素材にも気を付ける必要があります。日本の畳は、海外のモンテッソーリ教師も絶賛する最高の素材です。足の指がしっかりとかかって滑らないので、和室がない家でも、その時期だけは薄い畳を敷き詰めてあげるといいでしょう。

畳はハイハイに最適な環境

つかまり立ちの時期には、つかまってもひっくり返らない重いスツールや棚を準備してあげましょう。

つかまり立ちには安全なものを

1歳過ぎて歩けるようになった子どもは自信に満ち溢れています。誰にも頼らず移動できる手段であり、二足歩行というのは人間が人間である証でもあるからです。
その自信を失わせることをしてしまいがちなのは大人です。運動の発達が阻害されやすいのは1歳半以降に多いのです。モンテッソーリはこのように述べています。

「だっこしたりするから子どもは歩けないのです。子どもに代わって何かをやってやったりするから子どもは何もできないのです。人生の出発点からすでに子どもに劣等感を与えてしまっているのです。」(『創造する子ども』マリア・モンテッソーリ著 武田正實訳 エンデルレ書店)

第2回の魔の2歳児の項でも述べましたが、1~2歳児は自分でやりたい、自立へと強く向かう時期です。うまくできない動き、まだ獲得していない動きをやってみたいのですから、見ている大人はイライラが募ります。大人の生活は忙しいので見守ることができず、急かせるか、代わってさっさとやってしまいます。それが子どもにとっては大問題なのです。

動きを獲得するというのは、自分で思い通りに筋肉を動かせるようになることですから、誰かが代わってやることはできません。経験しなければできるようにはならないのです。そして肉体と精神は切り離すことができないものですから、やってみることができなかった子どもは、意欲が育たず、やってもらうのを待つしかなくなります。「やりたいときは、できないとき」だということをぜひ覚えておきましょう。


▶言語の発達


3つめは、言語です。赤ちゃんは胎内にいるときからお母さんの声を聞いています。生まれてからは人の言葉というものに興味を持って、口元をじっと見て学んでいます。モンテッソーリは子どもが言葉を獲得するために、正しく美しい言葉でたくさん話しかける特別な教師が必要であると述べているほどです。

環境にある言葉は母語となり、生涯にわたって思考の手段となり、人間同士の大切なコミュニケーションツールとなります。ですから、まだ話し始めない赤ちゃんのうちから、ゆっくりはっきり優しく言葉をかけてあげましょう。そして話し始めたら、今度は子どもが多く話せるようにしましょう。
モンテッソーリ教育には、具体物や絵カードを用いた3段階の名称練習(レッスン)があります。

第1段階:大人が「(これは)くま(です)。」と名称を簡潔に言う。3つとも言う。野菜など実物の場合には、名称を言う前に、触ったり匂いを嗅いだりすること。

第2段階:大人が「くまはどれですか?」「しかをください。」など、と名称を繰り返し聞かせて子どもに選ばせる。このとき場所で覚えることを避けるため、場所を移動して繰り返す。

第3段階:大人が「これはなんですか?」と名称を尋ね、子どもが名称を答える。わからなかったら、すみやかに第1段階に戻る。

レッスンでは、野菜、果物、動物、生活用品などを用います。最初は五感に訴えるため、3個くらいの実物からはじめ、順次、ミニチュアや絵カードも使うようにしていきます。数も次第に増やしてよいでしょう。


言語教育で使われるミニチュア動物

一般的には、第1、第2段階を飛ばして、いきなり子どもに「これ、何?知ってる?」と尋ね、子どもに「わからない。」とか「知らない。」と言わせてから「知らないから教えてあげる。これは~よ。わかった?」ということが多いのではないでしょうか。
でも、子どもは幼くても自尊心を持っています。知っていることを自信を持って答えたいのです。そのため第3段階は第1、第2段階で答えられそうな場合に行うものです。言葉をしゃべらない子どもでも、聞いて選べるなら、第2段階までは行うことができます。


▶大切に育てる基本的信頼感


最後に0歳から3歳でぜひとも育てておかなければならない大切なことについてお伝えします。それは基本的信頼感というもので、2つに分けて考えるとわかりやすいでしょう。

1つめは環境への信頼感です。赤ちゃんは胎内という安心で安全な環境に約9ヶ月もいました。ところが生まれてきたこの世界は慣れ親しんだ環境とはまるで違いますから、最初はとんでもないところに来てしまったと思っているのです。モンテッソーリは「誕生の危機」と呼んでいるほどです。

ですから周りにいる人たち、特に親御さんは、身体のお世話をすると同時に、赤ちゃんが身の回りの環境に対して、この世界も良いところ、自分を大切にしてくれる人がいるところ、と感じてもらえるようにすることが大切です。環境とは物的環境ばかりではなく、人的環境も含まれており、それは丸ごと子どもに取り込まれていくものです。

もう1つは自己への信頼感です。これは、1歳頃から育つもので、いろいろなことができるようになった子どもは、自分はできるという自信を持ち、さらに家族やお友達の役に立つことで、自分の価値を見出すことができるのです。やりたがることはぜひやらせてあげて、「できたね。」「ありがとう。」「助かったわ。」と言ってあげましょう。

この基本的信頼感が根底にあることで、子どもは健全に成長し、人格を形成していくことができるのです。かけがえのない最初の3年間を、ぜひ大切に過ごしてくださいね。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 






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