子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

日々の子育ての悩みや困りごとを、「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」の田中昌子先生が、モンテッソーリの考え方で教えてくれる連載です。ちょっとした工夫で、大きな変化が子ども達に起こり、ママを驚かせてくれるかもしれません。子育てママ必見です!

回答者:田中昌子

第23回 子どもの要求には、どのくらい応えてあげるべきでしょうか?



Q:
1歳9ヶ月の男の子です。毎朝起きると「抱っこ」「牛乳飲みたい」と泣いてせがみます。牛乳をコップに注いで、レンジで温めるのも、抱っこしたままでないと怒り、「椅子に座って飲もうね。」と伝えても、私から離れようとしません。膝の上で飲ませ、求められるままにテレビをつけ、抱っこしていないと泣きわめくので、トイレに行くのも困難です。1歳半での断乳後にこの習慣ができてしまい、もう3ヶ月です。毎朝、息子の要求に応えた方がいいのか悩んでいます。子どもの要求に応じることについて、モンテッソーリ教育ではどのように考えますか。


A:
毎朝繰り返されることが良い習慣ならば、一日が楽しくなりますが、好ましくない習慣になってしまうと、お互いに大変です。精神的にも肉体的にもさぞ辛いこととお察しします。
 
モンテッソーリ教育は子どもが主体であり、子どものしたいことを自由に選択させ、途中でやめても繰り返しても自由です。こう書くと、好き勝手なことをさせ、子どもの要求を無条件に受け入れる教育だと誤解されることがよくありますが、そうではありません。

モンテッソーリは著書の中ではっきりと述べています。

「私たちは、他人を怒らせたり傷つけたりする子どもの行動をすべて止めなければなりません。不作法で粗野な行為も同様です。」(『子どもの発見』 マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所刊)

第12回でも、「制限ある自由」について触れましたが、モンテッソーリ教育は、なんでもかんでも子どもの望む通りにする教育ではない、ということを今一度確認しておきましょう。


▶子どもの要求に応じる時期


1歳半で断乳されたあと、こうした習慣ができてしまった、とのことですが、おそらくお母様には母乳を欲しがるのにあげられないという申し訳なさが心のどこかにあったのではないでしょうか。母乳の代わりに要求に応じてあげることで、なんとかお子さんの気持ちを満たしてあげようと頑張ってこられたのだと思います。でも要求はどんどんエスカレートしますし、応えてあげても子どもの心は満たされるわけではありません。

その理由は、子どもの発達段階をみていくとよくわかります。

たとえば「抱っこ」ですが、生まれたばかりの赤ちゃんであれば、要求に応じていくらでも抱っこしてあげることが大切です。第20回で述べたように、誕生から1歳頃までは基本的信頼感を育てる時期ですから、母子が愛着して過ごすことが自立へ向かう土台となります。

ひと昔前には「抱き癖がつくから、泣いても抱いてはいけない。」と言われていましたが、赤ちゃん研究が進んだ今日では、この時期に徹底的に要求に応じてあげることで、人や世の中を信じることができるようになるとされています。

では、いくつになっても子どもの要求に応じて抱っこしてあげることが、子どもの発達に良いことなのでしょうか。モンテッソーリは、次のように述べています。

「3歳になってもまだ子どもを抱っこしたりしていると、発達が助けられるどころか阻害されてしまいます。子どもが機能の自立を獲得したその瞬間から、もうこの子にとっては、更に引き続き手を貸してやろうとする成人が障害になるのです。」(『創造する子ども』マリア・モンテッソーリ著 武田正實 訳 エンデルレ書店)


▶発達の4段階


子どもと大人のもっとも大きな違いは、子どもは常に成長する存在であり、その成長も急激であるということです。ですから子どもの発達段階を知り、それにあった対応をしていくことが必要です。

モンテッソーリ教育では、発達を4段階に分けて考えます。

 第1段階(乳幼児期)0歳から6歳
 第2段階(児童期) 6歳から12歳
 第3段階(思春期) 12歳から18歳
 第4段階(青年期) 18歳から24歳


このうち第1段階と第3段階は、さらにそれを半分に分けて対応しなければならないほど変化が激しい時期です。特に重要なのは0歳から3歳の時期とされています。

0歳から3歳の時期には1歳半が大きな節目です。もちろん個人差はありますが、しっかりと歩けるようになり、意味ある言葉が話せるようになる時期です。自分が行きたいところに行き、意思を伝えることができる、つまり、自立へと向かうとても重要な時期が、1歳半なのです。

もちろん1歳半になったその日から、泣こうがわめこうが一切抱っこしてはいけません、という意味ではありません。スキンシップもまだまだ大切ですし、眠いとき、疲れているときなど、抱っこで落ち着き、心が満たされることもあるでしょう。そういうときには、ぜひ抱きしめてあげてください。また外出先で寝てしまったときなど、どうしても抱っこで移動しなければならない場合があっても、やむを得ないと思います。

でも、今回のご質問では、ずっと抱っこでトイレにも行けないとのことですから、これを当てはめて考えても解決に至りません。


▶子どもが本当に求めているもの


解決方法をお話しする前に、この時期の子どもの発達に必要なこと、子どもが本当に求めているものについて考えてみましょう。
 
それが第20回で述べた、もうひとつの基本的信頼感である「自己への信頼感」です。1歳を過ぎた頃から子どもは、急速に手や身体を自分の意思通りに動かせるようになってきます。モンテッソーリはこれを随意筋肉運動と呼び、子どもは動くことで自分自身の内面を作りあげていくと考えました。肉体と精神は切り離すことができないからです。

つまり、この時期の子どもは本当はやってもらいたいのではなく、自分でやってみたいのです。ところが、「まだ小さいから」「できないから」とさせてもらえないことが多く、それが欲求不満、精神的な飢えとなり、癇癪につながることがよくあります。

これに対し、モンテッソーリ教育では、「一人でできるように手伝う」ことを考えます。


▶具体的な方法


今回のご質問に当てはめてみましょう。このケースでは、行き当たりばったりではなく、毎日の儀式のように流れが決まっているのですから、準備は楽です。

まず、椅子に座って牛乳を飲んでほしいのでしたら、子どもが自分の力で椅子に座れることが必要です。そのためには、自分で動かせる軽い椅子、足が床に届くような適切な高さの椅子を準備しましょう。

牛乳を飲みたがるのであれば、テーブルに牛乳をコップに注ぐことが、1歳児でもできるようにセットします。第4回でお茶を注ぐセットを紹介しましたので、参考にしてください。

ただし、1歳児はまだ手首の調整が難しく、途中で止めることができません。ですから、コップに線は不要ですし、全部を入れてもこぼれない量しか入らない、小さなピッチャーが必要です。また膨らみが大きすぎるものは、最後まで注げないので、形状や持ち手の持ちやすさなども吟味して準備します。

用具は重要 右2つは相応しくない例

セットは2組必要です。子どもに自由に選択させ、お母様が「提示」をするためです。ガラスのピッチャーは中身が見えるので魅力的ですが、陶器の方が丈夫です。こぼれたときに拭くものは、かわいいミトンがお勧めですが、なければスポンジでも構いません。トレイの上ですると、こぼれても安心です。

一人でできるように手伝う魅力的なセット ビニールマットはなくてもOK

事前に一連の流れをやってみると、慌てずにすみます。

初日は、泣きわめいてからでは、せっかくの魅力的なセットを見せられなくなりますから、そうなる前に抱っこですみやかに椅子とテーブルのそばに移動します。そのとき、高い位置で抱っこしていると重く、やってみせることもできませんから、抱っこのまま床に座り、子どもの足が床に着くようにしましょう。

子どもにとって魅力的なものがそこにありますので、早ければこの時点で子どもは自ら抱っこから降りて、椅子に座ろうとするものです。どうしても降りようとしなければ、やむを得ませんから、抱っこのまま始めます。


手順①用具の説明

「○○(呼び名)、いつも牛乳飲むから今日は準備しておいたの。これはピッチャー、牛乳が入っています。これはコップ、ここに注いで飲みましょう。これはミトン。こぼれたらこれで拭きます。」

さきほど述べたように、言語もたくさん獲得する話し言葉の敏感期でもありますから、用具の名称や何をするものかをきちんと説明します。語彙が豊富になるにつれ、泣かずに、言葉で解決できるようになります。


手順②自由選択

「○○(呼び名)は、どっちのコップを使う?」と子どもに選ばせます。1歳児は2択がお勧めです。「じゃあ、ママはこっちを使うね。」と子どもが選ばなかった方のコップをピッチャーの近くに置きます。

あえて違うコップを2つ準備して選択させる

手順③提示する

「見ていてね。」と左手でコップをしっかりと持ち、右手でピッチャーからゆっくりと全量をコップに注ぎます。小さいピッチャーは片手で持てますし、1歳児は左手をコップに固定した方が安定します。子どもがやりたがっても、すぐ終わりますから全部注いでしまいましょう。

左:口をぶつけないように注ぐ 右:温めないなら持ち手のないグラスの方が安定する

手順④子どもの活動

「○○も、やってみる?」あるいは「○○、どうぞ。」と椅子に移動してもらい、提示に使ったピッチャーとコップはテーブルから取り去り、子どもが選んだコップと牛乳の入った別のピッチャーを置きます。きっと子どもは目を輝かせて、自分で注ぎたがることでしょう。1歳児は、自分でやりたくてしかたがない時だからです。

左:サイドテーブルで入れ替えを なければテーブルの右端を利用 右:1歳児でも一人でできる!

温める場合には、レンジの場所や形状にもよるので、どの部分をさせてあげられるか、ご自身で考えてみてください。踏み台に載ってボタン1つ押す、回っているところを見るだけでも満足することがあります。

慣れたら少し大きなピッチャーでもこぼさない 1歳11ヶ月男


▶子どもの発達段階を見極める


このように、1~2歳の時期はテレビのような平面の世界ではなく、手で触って感じることができる本物の世界を、自分で体験することで、心も育っていくのです。

子どもの要求については、なんでも受け入れるのではなく、今、どのような発達段階にいるのか、子どもが本当に求めているものは何かをよく見極めて、対応してあげることが大切です。それが本当の意味での愛情ではないでしょうか。




田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師要請通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。  






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