子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第24回 できるのに一人でしないのは、赤ちゃん返りでしょうか?



Q:
2歳3ヶ月の男の子です。モンテッソーリ教育というと、「子どもは自分でやりたがるから、環境を整えて手伝ってあげましょう。」という話をよく聞きます。息子も自分でオムツや靴を履けるようになり、私は自立を手伝ってあげよう! と思っていました。

でも、7ヶ月になる妹が大きくなるにつれて、赤ちゃん返りなのか、できるはずのことでも「ママやって!」と言うようになりました。ご飯のとき食器の準備をさせてみたのですが、数日で飽きてしまったみたいです。このまま私が代わりにやってあげていてもよいでしょうか?


A:
一人でできるのにしようとしない、「できない」「ママ、やって!」ということについては、第16回でも触れました。幼児期にはよくあることで、珍しいことではありません。でも、本来は「自分で!」が口癖で自立へと向かっているはずの2歳児が、自分でやりたがらないというのは、さぞご心配なことでしょう。


▶身体的な要因と精神的な要因


できるのに一人でしない場合を、今回は、身体的な要因と精神的な要因に分けて考えてみます。

まず、身体的な要因です。親は、子どもは右肩上がりで成長していくもの、と思っています。でも、実際には行きつ戻りつしながら成長していきますから、時には本当にできなくなることもあります。「どっちがホントなの?」と大人は思いますが、どちらも本当です。大人のように何十年もそれをやってきたわけではありませんし、手指もまだまだ未熟ですから、ちょっとしたことが原因で、できなくなることもあります。

たとえば、ファスナーの金具の大きさ、ピッチャーの持ち手の形状、お盆の重さなどが少し変わっただけでも、幼児は困難を感じることがあります。また、寝不足だったり、便秘や下痢気味だったり、体調も一定ではありませんし、そうした影響も大人よりも顕著に現れます。

「できない」というのを嘘だろうと疑ってかからないことです。先入観を持ってしまうと、正しく観察することができません。どこかにやりにくい原因がないか、いつもと違っていることはないか、顔色はどうか、といったことも含め、よく観察することが大切です。

精神的な要因もいくつかあります。そのひとつが、一度できるようになったことは、やって当たり前、と思う親に対して、子どもは、いつも見ていてほしい、できたことを認めてほしいという願いがあるということです。モンテッソーリも、仕事を終えた子どもは承認を求めると述べています。

その証拠に子どもはよく「見て見て!」と言いますね。以前、海外で子育てをしていた時、公園に行くと「Watch me!」という声があちらからもこちらからも聞こえてきて、万国共通なのだと思ったことがありました。幼稚園や保育園ではできているのに、家では「できない!」というのも、ここに原因があります。


▶「赤ちゃん返り」は当然のこと


今回のご質問にある「赤ちゃん返り」というのも、よくある精神的な要因のひとつです。

程度の差こそあれ、上の子の赤ちゃん返りは、むしろ当然のことです。「赤ちゃんよりも、自分を見て」という気持ちをストレートに出せていますので、親は安心していいことです。

2歳児が、「自分よりも赤ちゃんを優先してあげて」とか「自分は放っておいていいから」と言ったら、そちらの方が心配です。そういった他者への配慮などは、もっとあとにならないと育たないものですから、2歳児では育っていなくていいのです。幼児期、特に幼児前期は個を確立する時期です。

男女関係にたとえてみるとよくわかります。第1子とお母様は、数年間べったり蜜月の恋人同士だったのです。そこに突然ライバル(赤ちゃん)が出現したら、どうでしょうか?「いいよ、そっちを愛してあげて。」と言うでしょうか?「こっちを向いてよ!」と必死になるのが当然ではありませんか。

それだけお母様のことを愛しているのです。一人でできていたことだって、したくありません。だって、自分でやったら、お母様は赤ちゃんのほうへ行ってしまうと思っているからです。


▶危機感の解消


まずは、上のお子さんにわかる形で、あなたを愛しているというメッセージを送り続けてあげてください。伝え方はお子さんの年齢や性格によっても違いますが、やはりぎゅっと抱きしめてあげる、向き合って相手をしてあげることが大切です。赤ちゃんを抱えて大変な時期かとは思いますが、ちゃんと対応してあげればそれほど長く続くものではありません。

また、赤ちゃんのオムツを持ってきてもらうなど、役に立つことをしてもらい、「ありがとう」と感謝しましょう。そうすれば必ず赤ちゃんを愛してくれるようになりますし、自分でできることは、自分からするようにもなります。

生まれた直後よりも、赤ちゃんが動きだす頃に注意が必要です。ご質問にもあったように、7ヶ月というのはちょうど腰がすわり、ずりばいなどが始まり、まさに動きが活発になる時期です。生まれた直後は可愛がっていたのに、この時期に赤ちゃん返りやイヤイヤが始まることが多いのは、自分のテリトリーが侵されるという心配が生じるからです。


左:ずりばいで手を伸ばす赤ちゃん 右:環境にあるものは何でも触りたい

実際に私の勉強会に参加されていらっしゃる方からも、上の子がせっかく描いていた絵を破られたとか、積み木を積んでもすぐに崩される、といったレポートをよくいただきます。さきほどの男女関係で言えば、最初は取るに足らない相手だったのが、どんどん強力なライバルに成長し、お母様を取られるのではないかという危機感がつのってきたということになるでしょう。

対応としては、時間的、空間的に分けることで、上の子の活動を保障するということをお勧めしています。時間的にというのは、赤ちゃんが寝ている時間や、一人遊びをしているとき、あるいは休日に別の家族が赤ちゃんの相手ができる時間を利用するということです。空間的にというのは、たとえば赤ちゃんは床で、上の子は高いテーブルの上で、それぞれの活動をする、ということです。

2人はテーブル、赤ちゃんは床でお仕事


▶人間関係の提示


今回のご質問ではありませんが、年齢が離れている場合や、逆にとても良い子でいる場合にも、心配りは必要です。自分の気持ちを抑えて無理していることもあります。年齢が離れているということは、一人っ子の期間も長いだけに甘えたいのに甘えられずにいることもあるからです。

「おねえちゃんだから」「おにいちゃんだから」という言葉は使わないようにします。親がどの子も同じように大切な子ども、という意識を持って接していれば、きょうだいの間にも良い人間関係ができるでしょう。大人は子どもに対して、どのように人に接するのか、という人間関係を提示しているからです。


妹に優しく花を見せる姉 親子関係が反映される


▶要因次第で対応を変える


こうしたことに気を付けて接していれば、本来の2歳児の姿が見えてくると思います。そこで、「できない」「ママ、やって!」というときに、やってあげていてもよいか? というご質問に戻ります。

身体的な要因の場合には、できない原因を取り除いてあげたり、体調が戻ったりすれば、すぐに自分でするようになりますから、少しくらいなら手伝ってあげたり、やってあげても構いません。

ただ、今回の「赤ちゃん返り」のように精神的な要因の場合には、なるべく代行しないことをお勧めしています。そのうちするようになる、年齢が上がればできるようになる、と思っていると、どんどんエスカレートして、5歳になっても着替えさえできないということになりかねません。実際、指示待ち、意欲がない、と悩んでおられる親御さんのレポートもよくあります。

その原因について、モンテッソーリは、著書の中で、以下のように述べています。

「正常に働いているはずの筋肉が使われないままにあれば、それは身体上のみならず、徳性上も意気消沈を起こします。ですから、筋肉活動にはいつも精神的エネルギーも関係します。」(『幼児の秘密』マリア・モンテッソーリ著 鼓 常良訳 国土社)


▶見直すポイント


子どもの活動というのは、人格形成と深く結びついていますから、第16回でも書きましたように、本来はやりたがっている子どもの意欲を、ひとつずつ引き出してあげるような対応が必要です。

質問者さんは、食器の準備をさせてみたのですね。少しでも自立へと向かうお手伝いをしたいというお気持ちは、とても大切なものです。ただ、すぐに飽きたとのことですので、以下のポイントを見直してみてください。


1、子どもが出発点かどうか

モンテッソーリのお仕事は、大人がやってもらいたいことではなく、子ども自身がやりたいことです。やらないとか、すぐ飽きてしまうという場合には、それは子どもの敏感期に合っていなかった、子どもが自分の成長に役立つものではないと判断した、と考えましょう。子どもが出発点になるためには、最初から大人が提案するのではなく、まず観察から始めることが大切です。ご家庭の中には、やりたいことがたくさん見つかります。『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』にもヒントがたくさんあります。


2、自由選択かどうか

モンテッソーリ園に行ってみると、たくさんのお仕事がすぐに始められる状態でセットされています。子どもたちは、あれにしようかな、これにしようかな、と迷ったあげく、自分でお仕事を選びます。

ご家庭ではそれほど多くの選択肢を準備することは難しいと思いますし、モンテッソーリ園と同じ環境を作る必要はありません。ただ、選択肢が全くないと、子どもは選ぶことができません。2歳児でしたら、2択、3択程度で構いませんので、選択肢を作ってみましょう。レタスひとつでも、ちぎる?洗う?とりわける?といった選択肢が作れます。


3、レベルに合っているかどうか

子どもが自分を成長させるためには、簡単すぎる内容では意味がありません。かといって、難しすぎるものでは、また「できない」「やって!」に逆もどりしてしまいます。そのあたりの見極めは、最初は難しいと思われるでしょうが、日々お子さんと接しているお母様だからこそわかるものです。

食器の準備も2歳児でしたら、同じものを合わせるといった知性の働きを利用すると、見違えるように生き生きと活動します。たとえば印が描かれているランチョンマットを使い、そこにぴったり合わせて食器を置く、といった作業にしてみると、また違った様子が見られるかもしれません。


左:刺繍があるランチョンマット 右:ぴったり置くのが楽しい時期

運ぶ素材も、最初は空の食器1つから、こぼしても問題ない食材が入っているもの、最後は液体へとステップアップしていきます。運ぶ道具も、両手つきの籠、縁の高いトレイ、普通のお盆へと、ステップアップすることができます。年齢に応じて少しずつレベルを上げていきましょう。

いずれも滑らないように布やフェルト、ビニールマットなどを敷いておくと安心。

子どもは大人と違い、日々成長していく存在です。身体的にも精神的にも、自分自身を創っていく大切な黄金期です。それを援助する大人は大変ですが、振り返ってみればあっという間であり、二度と戻らない輝く日々ですから、ぜひきめ細かいサポートをしてあげてくださいね。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 






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