子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第6回 公共の場所でものを投げたり、叩いたりします


Q:
1歳3か月の男の子です。レストランなどで、食器を投げたり、近くにあるものを乱暴に扱ったりするときの声かけに困っています。家にいるときなら、壊れないものを与えて、投げたり叩いたりさせることもできますが、レストランでは発散できる場所もなく、早くその場を離れることしかできません。

1歳になったばかりで、物を投げたり触ったりしたいのかもしれません。投げたりしないよう言葉で伝えても効果はあるのでしょうか。それとも親が何度も動きで手本を見せる方法が良いのでしょうか? 1歳になったばかりでも通じますか?



A:
公共の場所での対応は、多くの方がお困りです。親の躾が問われているように感じてしまい、少子化の今、冷たい視線も気になりますね。多くのお母様方が子どもにスマートフォンは良くないと思いながら、大人しくさせるためについつい使ってしまっている現状も、アンケート調査で報告されていますから、その場でどうすべきかをすぐに知りたいというお気持ちはよくわかります。

質問者さんは、「声かけに困っています」「言葉で伝えても効果はあるのでしょうか」とおたずねになっています。相手がまだ言葉を話さない1歳児ということもあって、言葉で子どもに伝えることが正しいのかどうか、ご自身でも疑問に思っているのでしょう。

当連載の第4回で、モンテッソーリ教育では言葉ではなく「やってみせる」ことで子どもにやり方を伝えると記しましたが、それをご理解いただいている上でのご質問と拝察します。

ただ、確認しておきますが、まだ話せない1歳児は言葉がわからないのではありません。また、話しかけることがすべて無駄というわけでもありません。それどころか乳幼児期は言語の敏感期といって、言葉に対してとても敏感な感受性を発揮する大切な時期です。胎児のときから、子どもは環境にある言葉をたくさん聞いて、それを吸収するからこそ、話せるようになるのです。

ですから、0歳からのモンテッソーリ教育では、赤ちゃんに対しても「オムツを替えましょう」「お風呂に入りましょう」と、美しい言葉でたくさん話しかけることを奨励しています。まだ話せない1歳児に対しても、「これはリンゴ。これはバナナ」と明確に名称を伝えた上で、「じゃあリンゴを取ってください」と言えば、ちゃんとリンゴを取ってくれるようになります。


▶子どもが集中できる手作業を選ばせてあげる


今回のご質問はレストランでのことですから、たとえ話せない1歳児であっても、出かける前に「今日はこれからレストランに行きますよ。レストランは、みんなで座ってご飯を食べるところです」とまずきちんと伝えることが大切です。

連載第2回でお伝えした秩序の敏感期でもありますから、いつもと違うことが突然起こるだけでも、子どもは落ち着かなくなります。事前にしっかりと話しをすることで安心しますし、それが子どもを尊重するというモンテッソーリの対応です。大人だって何も予定を伝えられず、いきなり見知らぬ場所に連れていかれたら、困惑しますし、心地よいとはいえませんね。

でもそれなら、食器を投げたり、近くにあるものを乱暴に扱ったりしたときも、「投げないで!」「乱暴にしないで!」と言えば、伝わってやめてくれるのではないかと思われることでしょう。そこが今回のポイントになりますが、これもご自身で回答していらっしゃいます。「1歳になったばかりで物を投げたり触ったりしたいのかもしれません」と。

連載第4回で「子どもは、大人に迷惑をかけたいわけではなく、その動きに興味があり、その動きがしたいだけ」と記しました。1歳児の手を動かしたい、触ってみたい、という欲求はとても強く、それはいわば自然からもらった宿題とも言うべき生命衝動に基づくものです。運動の敏感期であり、さまざまな動きを獲得しようとしているのです。

その行為で得るものは、動きの獲得だけに留まりません。モンテッソーリは、運動は人格形成の土台を作るものであり、幼児のそうした行為は、自分自身を作り上げるという偉大な仕事であることを、繰り返し強調しています。

ですから、子どもは、そのような崇高な仕事を、簡単にやめることはできませんし、大人はそれを妨げないようにする必要があります。その場でなんとか大人しくさせようとすることを考えるのではなく、その仕事を遂行できるような方法を考えるのが、モンテッソーリ教育なのです。

おたずねの事例にあてはめると、出かける前にレストランに行くことを伝えたあと、迷惑にならずにできる手作業を「レストランで待っているとき、どれがしたい?」と選ばせてあげるといいでしょう。大きな音が出たり、細かくて無くしそうなものや落としてばらまく心配があるもの、重かったり大きかったりするものは、大人がイライラしてしまうので避けます。

娘たちが1~2歳の頃、私がよく持って出かけたのは紐通しでした。穴が開いている台紙と紐だけで、かなり長い時間集中していました。パターンもいろいろありますので、子どもが好きなものを選べます。


木製の紐通し(ランダム)最初は引っ張るだけでも

紐通し だんだんと規則的に「縫う」準備にもなる

他にはフェルトでできたマジックテープやボタン、スナップのとめはずし、もう少し大きくなれば、釘を打ってあるボードに輪ゴムで形を作るものもおすすめです。時間が長くなるようでしたら、お気に入りの絵本なども持参するといいでしょう。読まなくてもめくるという行為が好きな子どももたくさんいます。

フェルトつなぎ(マジックテープ)外なら箱に入れて持ち歩くと便利

マジックテープもはがすところから はずした物を入れる場所を明確に(蓋を利用)

スナップも同じ つなげたあとはくるくる巻くお仕事にもなる


▶本物を使って、繰り返し練習を重ねる


質問者さんは「親が何度も動きで手本を見せる、という方法が良いのでしょうか?」ともおたずねになっています。もちろん大人がレストランの食器を丁寧に扱ってみせる、音がしないようにゆっくりと置いてみせ、「静かだったね」と言ってあげることは、素敵な提示となるでしょう。

ただ、1歳3か月の子どもは、それを見ても、その場ですぐ同じようにできるようにはなりません。今は、とにかくさまざまな動きを獲得し、それを繰り返し練習したい時期なのです。寝返りも歩くことも、1回ですぐにできたわけではありませんね。何度も何度も失敗し、練習を重ねてようやくその動きができるようになったはずです。食器の扱いも、その場でではなく、自宅で練習を重ねておきましょう。

家でならこんな紐通しも(1歳3か月)紐の先をテープでしっかり巻いておくのがコツ

連載第5回で記したように、モンテッソーリ教育では、1~2歳児のクラスでも、陶器のカップやピッチャー、厚手のガラスでできた花瓶なども使います。あえて割れるものを使って、両手で丁寧に扱うことを伝えていくのです。

日頃から1つずつ運ばせてあげると、意外と上手にバランスを取って持ち運びますし、感触も楽しめます。もちろんあまりにも薄いガラスや高価な茶わんなどはやめておきましょう。


▶投げてもいいもの、叩くと楽しいものを提示する


家で「壊れないものを与えて、投げたり叩いたりさせる」というやり方は正しいですが、壊れないものならなんでもかんでも投げさせたり、叩いたりさせるのはどうでしょうか。

割れないからといってプラスチックの食器や本などを投げさせていると、それらは投げていいものだと思ってしまいます。そういったものは、人に当たると怪我をしてしまいますし、投げてよいものではありません。

ですから、柔らかいゴムボールや毛糸のボールなどを準備して、「これはボール、投げてもいいよ。」と投げさせてあげましょう。段ボールに大きめの穴をあけ、そこに投げ入れるのも楽しいものです。

叩くのも、お友達や家具を傷つけることではなく、楽しい行為であることを伝えたいものですね。太鼓やタンバリンなどの打楽器を準備してあげましょう。そのときも、力まかせに叩くと破れたりしますから、良い音が出るような叩き方も提示しましょう。

このような生活を日々送っていますと、いずれ子どもは自己コントロールができるようになり、公共の場所へ連れていっても恥ずかしくないふるまいを自らするようになります。それが絵空事ではない証拠に、私の勉強会に参加していらっしゃる方からはこんなレポートをいただいています。


最近では、一人で双子を連れて電車に乗れるまでに成長してくれました。電車の中では騒がず、きちんと座って、小さな声でお話をするのです。その姿は、人として二人を尊敬できるほどです。
(2歳4か月 男女の双子の母)

電車の中など静かにする場所では何も言わなくても声を小さくするなど状況に応じて行動できています。優先座席について質問してきたので説明すると、お年寄りに「どうぞ」と席を譲ったことに驚きました。
(3歳1か月 男の子の母)

強制的に取り上げる、ダメダメを言い続ける、スマートフォンで気をそらすなどのその場しのぎを、ついついしたくなります。が、それを続けていますと、5歳になっても小学生になっても、人目を気にして叱り続けることになってしまうのではないでしょうか。

私たちが育てたいのは、社会の一員として愛され、受け入れられる子どもです。回り道のようでも、これが、親子が幸せになれる道であり、結果的には公共の場所でも困らず、ゆっくりレストランで食事を楽しむことができるようになる近道なのです。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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