子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第7回 怒ってばかりで自己嫌悪


Q:
隣家のお子さんは、きちんと挨拶をするし、落ち着いて素直で、まさに理想的な子どもたちです。でも、うちの子たちは、同じくらいの年頃なのに、乱暴でわがままで反抗的です。なんとか隣家のようにしたいと願っていますが、気づくと朝から晩まで怒ってばかりで自己嫌悪。もともとの出来が違うとあきらめたり、むしろうちの子たちの方が子どもらしいのでは、と自らを慰めてみたり、迷いが尽きません。こんな私にアドバイスをいただけないでしょうか。



A:
毎日怒ってばかりというのは、子どもにとってもご自身にとっても楽しいことではなく、双方を不幸にしてしまいます。どうすればお悩みが解決できるでしょうか。モンテッソーリの視点から考えてみましょう。
 
モンテッソーリが生きていた20世紀前半のイタリアでは、子どもというのは、うるさくて落ち着きがなく、乱暴で、自己中心的で、大人に反抗ばかりしている、泣きわめくのが当たり前のどうしようもない存在、と思われていました。今の日本でも、子どもとは本来そういうもの、それが子どもらしい子どもだと思っている方も多いでしょう。

しかし、モンテッソーリは科学的な研究と多くの子どもを対象とした実践を重ねる中で、それは子ども本来の姿ではないことを発見しました。一定の条件が満たされたとき、全く別の子どもが現れることがわかったのです。これが著書のタイトルにもなっている『子どもの発見』です。それはまさに教育革命でした。

全く別の子どもが現れることを、モンテッソーリは「正常化」と表現しています。正常化については第5回でお伝えしましたが、正常化した子どもは、穏やかで、落ち着きがあり、丁寧で、協調性や思いやりがあり、素直です。これをモンテッソーリは、今までになかった、という意味で「新しい子ども」と呼びました。


▶「新しい子ども」の姿は、必ずその子の中にある


お隣のお子さんたちが、モンテッソーリ教育を受けた子どもかはわかりませんが、理想をそこに置き、うちの子もそうならないかと願うのは、親心として当然でしょう。でも、そこが間違っているのです。理想とする姿は、すでに目の前の子ども自身の中に隠れていて、それを引き出すことが重要なのです。

つまり「新しい子ども」の姿は、必ずその子の中にあるのです。それを信じるところから、モンテッソーリ教育はスタートするといってもよいでしょう。今は信じられないかもしれませんが、すべての子どもの中に等しくそれは存在しています。まずは目の前のお子さんたちの中に素晴らしい姿が隠されていることを信じてあげましょう。

そもそも子どもは一人一人顔も体も違います。ですから、比較すること自体が誤りなのです。比較すべきは昨日の子ども自身、1年前の子ども自身です。そう考えますと、日々大きな進歩をとげていることが見えてくるものです。

モンテッソーリは「子どもを観察しなさい」「子どもから学びなさい」「子どもは私達の先生」と言いました。理想ばかりが頭にありますと、目の前の子どもの姿が見えなくなることが多いのです。将来こうなってほしい、ではなく、今、この子どもはどういう状態にあるのか、何に興味を持っているのか、どういったことをしたいのか、などを、観察によって把握しましょう。


▶子どもを観察するための3つのポイント


観察の重要性については、これまでもお伝えしてきました。子どもを観察しなさい、と言うのは簡単ですが、実際にはとても難しいことです。具体的なポイントを3つ挙げておきましょう。

1、先入観や思い込みを排除し、肯定的に見る

子どもの捉え方でもわかるように、大人は子どもに対して先入観を持っています。どうせ悪いことをしている、いたずらをしている、と思い込んでいると、たとえば子どもが化粧品の蓋を回して開けてこぼしたとき、「何やってんの! ダメじゃない」と叱ってしまいます。

でも、子どもは決して大人を困らせるために、蓋をいじっているのではありません。回す、開ける、傾ける、といった動きをしたい、自分自身を創り上げていきたい、と欲しているだけなのです。

モンテッソーリがこの教育を確立するきっかけとなったエピソードがあります。パン屑を拾ってこねまわす子どもたちを見て、管理していた大人たちは「あさましい」と軽蔑しましたが、モンテッソーリは科学者としての冷静な目と愛をもって観察することで、子どもたちの手を使いたいという欲求を見抜きました。親が我が子を見るときは特に、批判的にではなく、肯定的に見ることを心がけましょう。

2、知識を持って見る

たとえば『モナ・リザ』という有名な絵画を見ても、絵について学んだことがなければ、単に「いい絵だ」とか「これがあの有名な絵ね」で終わってしまいます。でも専門的な知識があれば、遠近法や色遣い、デッサン、あるいはモデルとなった人物など、さまざまな角度から見ることができます。同じものを見ても、見る人によって全く異なるものが見えたりします。

子どもについても正しい知識を持って見ることが大切です。敏感期、知性の働き、環境との関わり方といったモンテッソーリ教育の基本を知るだけでも、ずいぶんと子どもの見方が変わることでしょう。

モンテッソーリの基本的な考え方は、『モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』(相良敦子著、講談社)に詳しく書かれています。本書は、日本におけるモンテッソーリ教育のバイブルといわれていますので、ぜひご参照ください。

『モンテッソーリの幼児教育 ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』(相良敦子著、講談社)

3、観察したことを書いてみる

見たことはすぐに忘れてしまいますし、継続的な観察のためにも、記録に残すことをお勧めします。箇条書きで構いません。上記の本やモンテッソーリ教育を学ぶことで、記録を自分で分析できるようになるでしょう。そうすれば子どもの状態をより把握しやすくなります。

また、1の「肯定的に見る」こととも関連がありますが、どうしてもうまくいかない場合には、子どもの良いところを30項目書き出してみてください。笑顔がかわいい、元気がいい、病気をしない、よく泣くがすぐ立ち直る、など他愛もないことで構いません。30項目というのは、意外と書けないものですが、だからこそよく観察しようとするようになります。

子どもの状態が把握できたら、子どもが自分自身を創りあげていくために今、したいことを思う存分できる環境を整えましょう。好き勝手なことを、適当にさせるのではなく、子どもの興味に合ったお仕事を、目的にかなった使い方ができるように工夫して準備することが重要です

具体的な準備のしかたについては、私が監修した『こどもせいかつ百科』にも記載がありますが、子どもがすぐしたいことを始められるように、必要なものを過不足なく、籠やトレイにセットしておくということがポイントです。

窓ガラスの掃除セット

たとえば上の写真は、2歳前後の子どものための窓ガラスの掃除セットですが、洗浄液の入ったスプレー、スクイージー、スポンジ、布、がひとつの籠に入っています。低年齢の子どもの場合、トレイよりも手付きの籠の方が持ち運びやすく、このように色も統一しておくと、セットであることがひと目でわかるので、片付けもしやすくなります。

ストローのれんのセット

『こどもせいかつ百科』P.92で紹介しているストローのれんのような作品を作るときも、このようにセットにしておき、さらに見本を作っておくといいでしょう。

秋にはどんぐりや色づいた葉、春には桜の花びらや緑の葉など、季節感のある図案を取り入れると、準備したものが子どもに「やってみない?」と誘い掛けてくれます。


▶自分で選んだものに、繰り返し関わらせてあげることが「正常化」への鍵


第4回でお伝えしたように、子どもに対する適切な提示によって、やってみたいという動機づけとやり方を示すことも大事です。

あとは自由を保証し、自分で選んだものに、繰り返し関わらせてあげましょう。正常化への鍵である「集中現象」が子どもに見られ、達成感をもって自らやめたとき、子どもには大きな変化が見られることでしょう。

正常化とは、自由選択→繰り返し→集中→達成感の4段階を経て、初めて起こるものです。そのとき、子どもの心は穏やかになり、他人を思いやることができ、道徳的な生き方を見出す子どもになれるでしょう。

でも、まだ半信半疑とおっしゃるかもしれませんね。私のもとには、会員の方からたくさんのご報告がレポートとして届いております。非常に大きく変わった一例をご紹介しましょう。

最初の頃は、こんな様子でした。男の子のお母様です。

・歯磨きや着替えなどを嫌がり、自分の思い通りにならないと癇癪がひどく、たたいたりします。やりたがることはできるよう精一杯心がけても、あまりにも要求も不満も多く、耐え切れずに怒ってしまいます。
(1歳9か月)


質問者さんと同様、毎日、怒ってばかりで自己嫌悪だったといいます。でも、モンテッソーリ教育で学んだことを実践しているうちに2歳を過ぎた頃から変化がみられました。

・配膳をよく行い、食べ終わった食器も重ねて効率よく運んでくれます。ある日、主人と息子が二人でおやつを食べていて、私は少し離れた所で作業をしていたら、食器棚から食器を出して、自分のおやつを入れて私の所に持ってきて「どうぞ」と言われ、感涙しました。この時に、自分で出来る力を育てるという事は、人に何かしてあげる力も育てているんだと思いました。
(2歳3か月)


そして2年間の学びを経て、卒業されたときには、このようなレポートとなりました。

・本を読んだ時には「みんなが、こんないい子に育つなんて本当だろうか」と半信半疑だったことが、実際に自分の子にも当てはまるようになり、驚きました。
公共の場などで、行儀の良さ、利発さを頻繁に褒められる。
ルールを本当によく守り、破る子がいても自分は取り乱すこともなく遵守する。
保育園で集中力があると言われる。
物事をじっと観察して、自分で理解し、納得できるまで見ている。
人の話をよく聞いて、理解したことを自分の言葉で話せる。
以上のようなことがありました。
(3歳7か月)


いかがでしょうか。正常化への道は必ずあります。まずは目の前のお子さんをよく観察すること、この子は必ず変わると信じることから始めましょう。新しい子どもにきっと出会えます。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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