子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第9回 ほめてはいけないのでしょうか?


Q:
4歳1か月の女の子がいます。育児本や子育て相談のサイトでは、どれを見ても「ほめて育てなさい」と書いてあり、私もこれまでは一生懸命ほめてきました。祖父母も孫のすることには、いつも「すごい!」と拍手をしてくれます。ただそのせいか、最近は「どう? すごい?」「私ってえらい?」とほめてもらいたがるようになりました。

また、ご褒美のシールが目当てでトイレに頻繁に行ったり、食後のご褒美のアイスが欲しくて残さず食べたりするようになってしまい、これでいいのかと悩んでいます。モンテッソーリ教育ではほめてはいけない、と聞いたことがありますが本当でしょうか? 正しい対応のしかたを教えてください。




A:
ほめることは、子どもに自信を持たせ、次へのモチベーションになる、自己肯定感がはぐくまれる、つまり「ほめる=良いこと」という考え方は、確かに今の子育ての中心となっています。これは、日本の伝統的な厳しい躾による子育ては時代遅れ、叱って育てるのではなく、欧米式にほめて育てる、ほめて伸ばすのが正しいという、いわば、過去の反省の裏返しによるところが大きいようです。

また、文部科学省が1989年に告示し、1992年から実施された学習指導要領に採用された「新学力観」すなわち、「自ら学ぶ意欲や思考力、判断力、表現力などの資質や能力を重視する学力観」や2010年代まで続いたゆとり教育との関連性が指摘されることもあります。関心・意欲・態度を重視するという方針から、教師や親の関わり方は、自然と叱咤激励よりもほめることが好ましいということになったようです。

では、モンテッソーリ教育ではどうかといいますと、質問者さんのように、絶対にほめてはいけない、と思っていらっしゃる方が多いようです。それは、スタンディングという人が書いた『モンテッソーリの発見』(エンデルレ書店)P455に「あまり誉めすぎない」とあり、以下のような記述があるからでしょう。

「こどもを励まし、こどものしていることに関心を示すのは先生の役目ですが、『やりすぎて適量を越えないように』注意しなければなりません。こどもが『先生から誉められたい』ばかりに作業することになりかねない誉め方はしないことです。もしそれをすれば、子どもの知的発達にとっては何の価値もない『うわべだけの興味』を与えることになります。『子どもがわれわれに誉められようと仕事をするようになると、あらゆる種類のトリックをつかい始めるでしょう。……これではこどもが持っている貴重なエネルギーが、あたかも液体がひび割れしたところからもれてしまうように、無駄になってしまうかも知れません』」

これは、一切ほめてはいけないというのではなく、限度を越えた心にもない大げさなほめ方を戒めているものです。励まし、関心を示すことで、次もやろうとする気持ちを育てるのは、モンテッソーリ教育でも必要なことだと考えています。

ただし、なんでもかんでもむやみにほめるのは誤りです。それは子どもの姿をきちんと観察する、ありのままを見るということをしていない証拠です。また、モンテッソーリが危惧しているように、ほめられたいがためにそれを行う子どもにしてしまうことは、絶対に避けなければなりません。


▶大人が子どもを評価せず、子ども自身が上手にできたことを判断することで、本当の意味での自己肯定感が育つ


では、どのようにしたらよいのかといいますと、子どもが何かに興味を持ち、そのことに集中し始めたときには、一切の介入をしないようにすることが重要です。ともすると、大人はそういうときに「頑張っているねえ」とか「すごいねえ」と思わずほめてしまいそうになりますが、それが集中を妨げてしまうもとになります。第7回でお伝えしたように、集中は正常化にとって鍵となる現象ですから、そういったときには、ほめ言葉であっても邪魔になるということを知っておきましょう。

子どもが満足してお仕事を終えたときには、拍手をしたり「頑張ったねえ」「すごいねえ」と言葉に出して言ったりするのではなく、微笑み、認めてあげるだけで十分です。モンテッソーリは、精神的な魂の静けさを贈る、と表現しています。

ですから、質問者さんが書いていたようなこと、つまり、トイレに行く、ご飯を食べるといった人間として当たり前にすることについては、「できたね」と認め、共感してあげればよいことで、あえて大げさにほめる必要はない、と考えています。そこをほめてしまいますと、ほめられることが目的になってしまいがちです。

どうしても言葉に出して何か言いたいというときには、「お皿を丁寧に洗ったね」「こぼさないで運んだね」のように、事実をありのままに言うことをお勧めします。

これは慣れないとなかなか難しいですが、子どもを評価しないことにつながります。大人はどうしても子どもを評価しがちです。しかし、自分が上手だったかは、本来子ども自身が判断すればよいことで、子ども自身が一番理解できていることなのです。そうして育つのが本当の意味での自己肯定感です。大人がいくら言葉を尽くしても、言葉だけで自己肯定感を育てることはできません。


▶自分自身を創りあげていくという崇高なお仕事をやり終えた子どもは、ほめるという大人の評価やご褒美が不要になる


ほめたりご褒美をもらったりということに慣れてしまった子どもは、それがないと、当然ですがやらなくなります。常に大人の顔色をうかがったり、評価を気にしたりするようにもなります。特にご褒美は、どんどん高いものを要求するようになります。また、ちょっとうまくいかなかったり、失敗したりすると、極端なまでに落ち込んだり、もうやらないとふてくされてしまいます。

もし、こうした状況になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか。モンテッソーリ教育では子どもの活動をお仕事と呼ぶことについては、第1回でお伝えしました。自分自身を創りあげていくという崇高なお仕事をやり終えた子どもは、ほめるという大人の評価やご褒美が不要になるのです。

モンテッソーリは子どもたちがお菓子や飾りといった褒美を突き返す、といった様子を著書にたびたび書いています。実は私も同じ経験をしたことがあります。ずっと以前ですが、公共の場所を借りて母子のモンテッソーリ勉強会を開いていたときのことです。

時間にも限りがあるため、余裕をもってお仕事を切り上げてもらおうと、お仕事のあとは、おやつタイムにしていました。その日もそろそろ時間だからと、おやつを準備してベルを鳴らし、「終わった人からおやつにしましょう」と子どもたちに声をかけたのですが、その日に紹介した紐を結ぶというお仕事に夢中になっている子どもたちは、見向きもしません。

何度も紐を結ぶ

しばらくたって、ようやく1人、2人と自分で区切りをつけた子どもがおやつを食べに来ましたが、1人だけは一心不乱に紐を結んでいます。みんながおやつを食べ終わって帰り支度を始めた頃、ようやく紐をほどいて片付けました。食べなかったおやつを手渡そうとしても受け取らないので、お母様に渡して帰ってもらいましたが、そのときの子どもの顔は満ち足りて輝いていて、まるでおやつよりもずっと素晴らしいものがある、と言っているかのようでした。

3歳5か月が結んだ紐

いくつも紐を結ぶ


▶手と五感を使う活動のすすめ


すぐにうまくいくようにはなりませんが、ぜひ、手と五感を十分に使う活動を親子で一緒にしてみましょう。4歳過ぎでしたら、ほとんどの家事ができます。食事をなかなか食べないことがお悩みなら、食に関わる作業を積極的にさせてあげましょう。自分がちぎったレタス、自分が切ったニンジン、自分でよそったご飯は、格別においしいものです。




レタスをちぎる1歳7か月

包丁で野菜を切る4歳半

また、お母様やお父様からも「おいしいね。ありがとう」のひとことがあれば、それこそ次へのモチベーションとなるでしょう。子どもは本来、奉仕の心を大人以上に持っていて、人の役に立つことを好むものです。

シールが好きならば、トイレに行かなくとも、たくさんのシール貼りを準備して、繰り返し貼らせてあげましょう。丸と丸をぴったり合わせて貼る、色に規則性を持たせるなど、知性を働かせる要素がたくさんあり、さらには数的な要素もありますから、子どもは、もっとやりたい、もう1枚やる、と活動することができるのです。

こうして外的動機付けではなく、自らの内面の教師に従ってお仕事をした子どもには、ほめ言葉も褒美もいらなくなるのです。賞罰という外的抑圧で動くのではなく、自分というものをしっかりと持った子ども、個が確立された子どもというのは、そういう子どもです。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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