第55回(2014年) 講談社児童文学新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2014.9.25

  • 朽木祥先生

    『僕とすごろくと五段目のない夏』。子どもが楽しめる要素もエピソードも多彩。作品としてはまだ荒い印象がぬぐえなかったものの、大きな可能性も感じられた。
    『透蛇―すきへび―』。透蛇のイメージが忘れ難く魅力的なので、作品の完成度が足りなかったことが惜しまれる。ぜひ書き続けていただきたい。
    『ミュージック・スターーート!』。抑制の効いた筆致、巧みな省略など優れた点の多い作品だった。今回はモチーフに難しさがあったが、期待できる書き手だ。
    『それぞれの名前』。登場人物の書き分けや伏線の張り方など見事。何より子どもの感情をきちんとすくい取って描かれた作品。章立てだけ再検討を。
    『赤ふんどしのゲロウ』。設定から表記にいたるまでよく練られた物語。現世の生きなおしを「魂をなめる」というアレゴリーから描き起こしたところも巧みだった。
    受賞者お二人に心よりお祝い申し上げるとともに、候補者の皆さんに大きなエールを送りたい。
  • 千葉幹夫先生

     今年も選考は難渋しました。『僕とすごろくと五段目のない夏は四編の連作ミステリーです。発想は楽しいのですが、肝心のミステリー部分がきちんと構成されていませんでした。でも「おもしろい話を書きたい」という思いは伝わってきました。『透蛇―すきへび―』は登場人物が巧みに書き分けられていますが、透明な蛇が作品の中できちんと位置づけされていないうらみがあります。
    『ミュージック・スタァーーート!』は構成や人物描写はうまいのですが、少女コミックのパーツを集めてきた感があって、新鮮味はあまり感じませんでした。
    『赤ふんどしのゲロウ』は死んだ人間があの世から戻ってしまう物語ですが、昔話「閻魔の失敗」ほどの切れ味はないものの、発想のユニークさと表現にひかれるものがありました。『それぞれの名前』は後半二章が甘く、作品の完成度が落ちましたが、力のある作者です。いい作品に仕上げてくれるでしょう。
  • はやみねかおる先生

     佳作二編は、他の三編より完成度が高いように思われました。『赤ふんどしのゲロウ』は着想もおもしろく文章も丁寧で、そのまま本になってもおかしくないと思いました。しかし、物語全体の魅力に欠けてるように思えます。子供が手に取ってくれるような工夫が必要でしょう。『それぞれの名前』は、ラストまでは、とても良いと思いました。子供が読むという点を意識して、ラストを中心に手を加えれば、よりよくなると思います。
     他の三編――『ミュージック・スタァーーート!』は、子供たちの動機付けが弱く感情移入できません。ダンスについても、もっと調べた方が描写に深みが出ます。『僕とすごろくと五段目のない夏』は、特にミステリー部分が弱いです。もっと推理小説を勉強してから書きましょう。『透蛇―すきへび―』は、場面転換や時間経過がわかりにくく、読みづらいです。書き終えたら、誰かに読んでもらってから応募することをお勧めします。
  • ひこ・田中先生

    『赤ふんどしのゲロウ』は、死んだへいろくが地獄に送り届けられるまでの出来事が、おもしろおかしい冒険譚として描かれているところに魅力を感じました。ただ、へいろくがここにやってきた原因が、子ども読者にとって興味を持てるものかが疑問で、もう少し詰めて考えて欲しいと思いました。『それぞれの名前』は、見分けがつかないことを楽しんでいる双子の話から始まるアイデンティティ物語として魅力的でした。しかし、五話目から話がずれていき、六話のエピソードの処理が果たしてこれでいいのかに引っかかりました。児童文学は子ども読者にモラルを押しつけるものでは決してありませんが、子どもたちがそこからメッセージを受け取ることもまた確かで、その場合、この終わり方で何を伝えてしまうかを問い直してください。
    YA年齢より下の作品を描く難しさを思います。それでも挑戦して欲しいです。この年齢の読者に届けば、彼らはあなたと同じように、ずっと物語を好きでいてくれるのですから。
  • 令丈ヒロ子先生

     今回の最終選考に残った五作はいずれも個性的で、その作者独特の空気があり、子ども読者向けの工夫もされており、とてもおもしろいものでした。
    佳作に選ばれた二作は特に作者の個性がうまく文章化されていて、読者が楽しく読めるものだと思いました。
    『赤ふんどしのゲロウ』は、読み始めは「昔話」ぽい地獄世界のようなんですが、読み進めるうちに主人公の活躍やナイーブな心情に引き込まれ、鬼や地獄の住人との友情がさわやかでした。作者にYAやエンターテインメントの才能を感じました。
    『それぞれの名前』は、章ごとに語り手の変わるむずかしい構成なのに、それぞれの心情が自然に感じられ、非常にうまい書き手だと思いました。また「名前」は普遍性のある大事なテーマで、目の付け所がよいとも思います。最後までこのテーマを大事に、四章までのおだやかなテンポとキャラの描き方を保てれば、新人賞獲得となったと思います。
    『僕とすごろくと五段目のない夏』は、勢いのあるギャグの連打に爆笑しました。ミステリーや、読み物としては後半破たんしていて、キャラの扱いも荒いのが目につきました。コメディの才能を生かして、もっと身近なテーマで、シンプルなお話作りをされたら、高評価を得られたのではと思います。
    『透蛇―すきへび―』はごく小さな透明の蛇という映像的に美しい発想はとてもよかったのですが、構成や描写にむらや欠けが多く、説明不足のため作者の伝えたいことがわからないまま終わったのが残念です。アイデアを大事に、ていねいな話作りと描写をされることを望みます。
    『ミュージック・スタァーーート!』は、クイーンとの友情や、主人公のあたたかく庶民的なキャラに好感を持ちました。話作りも構成も破たんなく、読みやすかったです。しかし、かんじんのダンスシーンの描写がいきいきしていなくて、ダンスの楽しさに夢中になる子どもらの気持ちに同調できなかったのがもったいなかったと思います。
    惜しくも新人賞は逃しましたが、佳作の二作は完成度をもっと高めれば、読者が喜ぶ、良い本になるのではないでしょうか。また選からもれた三作についても、みなさん、おもしろい書き手だと思います。次の作品に期待します。
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おやすみなさいの絵本

  • ゆうくんの くまパジャマ

    ゆうくんの くまパジャマ

    中谷靖彦/絵
    カザ敬子/作

    ある日、ゆうくんに、素敵な「くまパジャマ」が届きました。さっそく着がえたゆうくんは、「ぼく、くまだぞー」とおおはしゃぎ。ところが、その後、ゆうくんに不思議なことがおこります。心温まる、おやすみ絵本の新定番。

  • ねんねん どっち?

    ねんねん どっち?

    宮野聡子/作

    どっち? という楽しい質問につぎつぎ答えていくうちに、自然に眠りの世界へといざなっていきます。おやすみ前のひととき、「どっちあそび」で親子の豊かな時間をすごしませんか?

  • ねんね

    ねんね

    さこももみ/作

    「おばけがこわくてねむれない。」というまみちゃん。だいじょうぶ、おばけもママといっしょにねんねしちゃったよ。安心しておやすみ。かわいい寝かしつけの絵本です。

  • ゆっくり おやすみ にじいろの さかな

    ゆっくり おやすみ にじいろの さかな

    マーカス・フィスター/作
    谷川俊太郎/訳

    眠れないにじうおは、こわいことばかり考えてしまいます。親子の愛情を感じさせる一冊。手に取りやすいミニサイズの年少版もおすすめです。

  • 0・1・2さいのすこやかねんねのふわふわえほん

    0・1・2さいのすこやかねんねのふわふわえほん

    前橋明/監修

    おふとんみたいに表紙がふわふわ! しぜんに生活リズムが身につき、気持ちのよい眠りへとみちびく、心とからだが安心するおはなしいっぱい!
    親子のふれあいを生む、ねんねのうたとおはなし決定版!

  • おやすみなさいの おと

    おやすみなさいの おと

    いりやまさとし/作

    おやすみなさいの時間です。でも、あらいぐまの子どもたちは、外からきこえてくる音が気になって眠れません。心安らぐ、静かでやさしい寝かしつけの絵本。

  • おやすみ ぞうちゃん

    おやすみ ぞうちゃん

    三浦太郎/作

    ぞうちゃんは、泣いたり笑ったり、おおいそがし。おやすみまでの一日を、ユーモアたっぷり、愛情豊かに描きます。シリーズ第3弾。

  • おやすみ のらちゃん

    おやすみ のらちゃん

    よねづゆうすけ/作

    猫ののらちゃんは、そろそろねるじかん。 きがえは? トイレは? はみがきは? おやすみ前にぴったりの、とっておき仕掛け絵本。

児童文学新人賞 既刊