第56回(2015年) 講談社児童文学新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2015.9.17

  • 朽木祥先生

    『仮装行列 ─バーチャル・パレード─』
     創作ミステリ上演に観客を巻きこむあたりなど面白い点もあるのですが、全体の構成や文章、特に会話文に難点がありました。選考後、蓋を開けてみれば14歳の若い書き手の作とのこと。この才能を大事に、大きく成長していって下さるよう、エールを送ります。
    『鼻毛くん』
     鼻毛の擬人化という設定を読者がまず受け入れられるかどうかが、大きなハードルでしょう。また、文章を追っても鼻毛くんの姿や動きを思い描き難かったのが残念でした。独創性のある書き手なので、ぜひ創作を続けて下さるよう、祈っています。
    『さっ太の黒い仔馬』
     子どもたちがいかにしてふさわしい仔馬を得ていくかを説得力のある展開で読ませ、登場人物や動物たちの様子も丁寧に書き分けて魅力的な物語世界を作っています。児童文学の王道ともいえる長所が新しさという点からは短所ともなったために佳作となりましたが、このようにまっすぐな作品が世に出ていくのは喜ばしいことです。麦穂さん、おめでとうございます。
    『夜露姫 狭霧丸』
     本作も王道的な作品であり、それ故の既視感もありましたが、姫の身過ぎ世過ぎの展開などが魅力的でした。時折混じる現代的な表現には違和感があったものの、今後の方向性次第では活かせる部分でしょう。創作歴史物の新たな書き手として、活躍が期待されます。みなと菫さん、おめでとうございます。
    『ぼくたちのリアル』
     少年たちが魅力的に描かれ、難しいテーマをさらりと描き出すことにも成功しています。ただ、過去の事件の重さからは主人公璃在(リアル)の今につながるキャラクターは立ち上がってこないと考えました。その難点を措いてなお評価できたのは、今日的な主題や現代の子どもたちの学校生活や交歓がいきいきと描かれていたからです。児童文学にどんな新しい局面を開いていって下さるか――大きな可能性を感じます。高橋雪子さん、おめでとうございます。 
  • 千葉幹夫先生

     まず本賞一編、佳作二編を選出できたことをよろこびたい。
    『ぼくたちのリアル』は現代を感じさせる作品で学校という場をよく生かしている。飛鳥井(語り手)もサジという少年もくっきりしていた。ただリアルが弟と母の死に直接関わったというのは、物語の展開上、重すぎる。リアルにもっと陰ができるはずだと感じた。
    『さっ太の黒い仔馬』は古いという印象は否めなかったが、むしろ現在では王道であるという意見にうなずいた。完成度は高いと思う。
    『夜露姫 狭霧丸』はていねいな時代描写に現代的な会話で、これがラノベの王道であるかと思った。もう少し読者対象を意識できれば、たのしい作品となるだろう。
    『仮装行列 ─バーチャル・パレード─』は読ませる力はあった。しかし密室事件を実際は解決しないとか、設定に無理があり、ミステリーとしては未完成というほかはない。
    『鼻毛くん』は意表をつかれる設定で楽しい。ただ巨大化し意識を持った鼻毛と人の体の関係がうまくつかめなかった。鼻毛である必然がうすいからだろうか。
  • はやみねかおる先生

     最終候補作の中で、もっとも子どもに読ませたいと思ったのが、『ぼくたちのリアル』でした。〝きちんとした大人〟〝きちんとした子ども〟が書けています。細かい修正点はあるかと思いますが、それを気にさせない文章力、構成力を感じました。これからも、どんどん書いていってほしいと思います。
     他の四編──『さっ太の黒い仔馬』は、とても上手で書き慣れている文章です。ただ、試練についての解釈が甘いのが残念です。『夜露姫 狭霧丸』は、歴史について興味を持たせる物語です。しかし、歴史以外の部分が薄っぺらいのが惜しいです。『鼻毛くん』は、おもしろい設定を読ませる文章力を磨いてください。描写も、よくわかりません。『仮装行列 ─バーチャル・パレード─』は、もっとたくさんミステリーを読んでから書くのがいいと思います。四編共通して、登場人物の性格設定を、最初にきちんとしてないように感じました。
  • ひこ・田中先生

     『仮装行列 ─バーチャル・パレード─』は、文化祭で上演するミステリーの脚本が完成しないままになっており、その結末を推理するという魅力的な始まりの作品なのですが、舞台(虚)と現実の交差が巧く描かれていないのが残念でした。『鼻毛くん』は主人公の鼻毛が活躍するユニークな発想と、物語が目指そうとする友情などのテーマが結びつく必然性に乏しかったです。鼻毛くんというキャラを活かした作品を考えてもいいと思います。『さっ太の黒い仔馬』は試練による成長というスタンダードな物語で、そこはとても良かったです。ただし作りの丁寧さが足りません。もっと削り込んでください。『夜露姫 狭霧丸』は平安時代物の少女小説です。時代背景をもう少ししっかりと描くことをこれからも心がけてください。期待しています。『ぼくたちのリアル』は、主人公の友人リアルが抱えている罪の重さが、この作品世界に果たして必要かがとても疑問でした。人物がもっと描けていれば、そうした設定を使わなくてもこのテーマは書けるはずです。
  • 令丈ヒロ子先生

     今回はオーソドックスなテーマ、ストーリーのものが三作選ばれました。受賞作それぞれが、過去から繰り返し児童書で描かれてきた大きなテーマを、それぞれの工夫でさわやかに仕上げたところがよかったと思います。
    『仮装行列 ─バーチャル・パレード─』
     矛盾点やわかりにくいところも多かったのですが、大胆な構成と登場人物のキャラクターがおもしろかったです。まだ中学生だという作者の将来に、大きく期待します。
    『鼻毛くん』
     テンポよく楽しめる、陽気な作品でした。笑いの質が低年齢向けの印象なので、もう少し低めの年齢の読者に向けて書かれていたら、さらに良かったのではと思います。
    『さっ太の黒い仔馬』
     のんびりとしたネオ昔話といった空気が、愛らしい作品でした。里の在り方など、設定部分をもう少し丁寧に描いていれば、テーマがもっと重みを持って、読者に伝わったと思います。
    『夜露姫 狭霧丸』
     平安時代という背景がしっかりと描かれていて、お話もすみずみまで丁寧に組み立てられていて感心しました。キャラクターの描き方もうまく、安定した筆力の持ち主ですね。
    『ぼくたちのリアル』
     今を生きる子どもたちの姿が軽やかに、独特のセンスで描かれているのに惹かれました。後半の、問題提起的な部分には少し違和感を感じましたが、基本的に、新しい時代の児童書を作る力がある人だと思います。
講談社 児童文学新人賞 募集要項 講談社 児童文学新人賞 経過と報告 講談社 児童文学新人賞 既刊

おすすめの絵本

  • もったいないばあさん

    もったいないばあさん

    真珠 まりこ/著

    「もったいない」って、どういう意味?

    きょうも あの ばあさんが やって きた――もったいない こと して ないかい?

  • だいじょうぶ だいじょうぶ

    だいじょうぶ だいじょうぶ

    いとう ひろし/文・絵

    おじいちゃんと散歩しながらわかったこと。道ばたの小さなものにも声をかけるおじいちゃん。楽しい散歩をしながら不安なことや怖いものも知ったぼく。ぼくはこのままちゃんと大きくなれるんだろうか?

  • ほしじいたけほしばあたけ

    ほしじいたけほしばあたけ

    石川 基子/作

    タマゴタケやキヌガサダケ……いろいろなきのこが暮らすきのこ村は、いつもにぎやか。そんなみんなから敬愛されているのが、ほしじいたけと、ほしばあたけ。ある日、村の子どもが谷から落ちてしまい、それを聞いたほしじいたけは、体を張って助けようとするのですが……。

  • うめじいのたんじょうび

    うめじいのたんじょうび

    かがくい ひろし/作

    今日はうめじいのたんじょうび。ところで、うめじいって、いくつなんだろ? 100さい? 200さい?? 1000さい!? 浅漬けきゅうりや、たくあんや、らっきょう漬けや千枚漬けが梅干しのうめじいをかこんで、たんじょうびを祝います。

児童文学新人賞 既刊