第58回(2017年) 講談社児童文学新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2017.9.29

  • 小林深雪先生

    『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』魔法の呪文のような不思議なタイトルにまずひかれました。主人公は、マレーシアからの帰国子女。タイトルは五七五七七という意味で、短歌や吟行にマレーシアの言葉や文化が絡んでくるところが楽しい。同級生のお父さんがマレーシア人と再婚、イスラム教に改宗するため、もうトンカツを食べられないというエピソードなど、今の時代のリアルをよく捉えている物語だと思います。
    『107小節目から』世界がまた始まる前の静寂、という意味のタイトルが本文でも効果的に使われていて、印象に残る作品でした。ただ、音楽、水泳、貧困、いじめ、父の暴力、祖母の病気など、エピソードが盛り込みすぎで、少しもったいないなと感じました。
    『大坂オナラ草紙』似顔絵の得意な小五男子が、そのことで同級生を傷つけてしまい、好きな絵を封印。でも、江戸時代にタイムスリップし、人相書きで泥棒を捕まえるというエピソードがよかった。飾らない大阪弁の会話が楽しく、好感度の高い楽しい作品です。
    『さよならシュトラウス。』コンサートでオーボエのリード入れが飛んでくるシーンにハッとさせられ、金髪美少年ルーのキャラもとても魅力的でした。ただ全体的に大人っぽく、音楽の専門用語も多いので、クラシックになじみのない子どもたちに読んでもらえるような工夫がさらにあるといいなと思います。
    『らしくない島へようこそ』女の子らしくない主人公に、洗い物の下手なアライグマなど「らしくない」というテーマがとてもいいし、個人的には好きな作品です。素早いナマケモノから招待状が届くところなどは、「どんぐりと山猫」の現代版のようでワクワクしました。ただ、島に呼ばれるための条件や島の世界観は、もっと細かくきっちり決めた方がよかったと思います。島への行き方、戻り方にも、もう一工夫欲しかったです。
    『金華の舞』物語の基本がきっちり押さえてあって、過不足なく書けているファンタジーです。が、舞い手になって結婚式と、物語が予想通りに進んでしまいました。もう少し意外性があってもよかったと思います。
     今回は、最終候補作のレベルがとても高く、四作品受賞となりました。惜しくも選外になった二作品も心に残る作品でした。今後もぜひ書き続けて欲しいと思います。
  • 那須田淳先生

     今回の最終選考に残った作品はいずれも骨格がしっかりしていて、面白く読めた。その中で、リアリティと読者への寄り添い方を意識しながら選考に当たらせてもらった。
    『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』——マレーシアからの帰国子女サヤは、ひょんなことで風変わりな先輩と短歌をやることに。サヤの「浦島太郎(花子?)」的な不安感を横糸に、先輩と気になる幼なじみの少年の恋の行方を縦糸に編み込んだ爽やかな自分探しの物語。ドラマを通じて主人公がどう成長するかがYAまでの子どもの本の世界では大事なポイントだが、今回の候補作の中で一番明快だったと思う。
    『さよならシュトラウス。』——ホルン吹きの少年奏は、ニューヨークの音楽院の試験会場で憧れの演奏家から否定され、さらに天才オーボエ少年リュージュと出会い衝撃に打ちのめされる。そこから這い上がる奏の姿と、ホテルのロビージャックや音楽家仲間とのセッションに展開力があり、個人的には一押しの作品だった。とはいえ共感覚という特異体質を物語の核に使い、読み手に距離感を感じさせてしまったのが残念。
    『大坂オナラ草紙』——オナラでなぜか江戸時代と現代をタイムリープするようになってしまった平太。得意な絵で友達を傷つけてしまったことを後悔する平太だが、江戸時代で出会った少女や瓦版屋との交流を通して人に何かを伝える意味をもう一度考えるようになる。文章が軽妙で、ラストの「未来新聞」への持って行き方など「うまい」と思わずうなった。とはいえ、オナラと帳面をタイムリープの仕掛けにしたのが、やや狙いすぎで安易だったのではないか。
    『107小節目から』——吹奏楽に憧れる由羽来だが、父親には無理にスイミングスクールに通わされて気分はずっとグレー。ドヴォルザークの「新世界より」の二楽章の107小節からの休符に、過去と未来を結びつけたところは秀逸だが、水泳と音楽がずっと平行のままで物語を展開させてしまったところが気になった。
    『金華の舞』は、異国を題材にしたお姫様ファンタジーだが、平和への祈りと舞いが物語中心になってしまい、展開に弱さを感じた。
    『らしくない島へようこそ』は、小学校中学年向きのファンタジーとしては、アイデアも展開も面白くて好感がもてた。ただし、あの島にいけた人間が主人公とお母さんだけというところなど、ところどころに違和感を覚えた。このジャンルの書き手が少ないだけに惜しい。
  • 茂市久美子先生

    『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』は、帰国子女である主人公を通し、現代の社会と登場人物たちのドラマが、よく描けていると思いました。特に印象深かったのは、時計店の息子ならではの「一七五二〇回転」。時計が二年間に回転する数のことですが、ここでの話には、女子なら誰でも胸をきゅんとさせるだろうと感心しました。魔法の呪文のようなマレーシア語のタイトルが生きてくる物語の終わらせ方もよく、今回一番に推しました。
    『らしくない島へようこそ』は、「……らしくない」と言われたものたちが招待される島という発想は面白いのですが、そこへ招待されるものたちの、らしくない度合いと、そこで暮らす期間が、ばらばらで、島の設定を練り直す必要があると思いました。
    『107小節目から』は、主人公の心が変化していくプロセスがていねいに描かれていて、好感をいだきました。ただし、主人公の祖母が登場するまでが長く感じられ、父親についても、ひどいところばかり印象に残るので、そうならないよう、よい面も描かれていたら、物語がもっとよくなっただろうと思いました。
    『大坂オナラ草紙』は、主人公が、納戸で見つけた冊子を通して、過去と現在を何度も行ったり来たりしますが、それが気にならず、どちらの世界もテンポよく描かれ、楽しく読むことができました。過去がいまに続き、いまが未来に続いていると、大切なことも伝えていて好感をいだきました。下ネタがなくても充分楽しい物語だっただけに、下ネタの多さが、ぎゃくに残念でした。
    『金華の舞』は、舞の描写が秀逸でした。ただ、物語全体を通し、戦の説明が長く感じられ、「ツオ原の戦い」が十年前なら、人々の記憶にまだ昨日のことのように残っているはずなのに、その戦に対する主人公の関心度が薄く、不満が残りました。
    『さよならシュトラウス。』は、クラシック音楽と楽器についての表現が素晴らしく、その文章のうまさに感心しました。主人公が、共感覚を持っているがゆえに、仲間とうまく付き合えない性格もよく描いていると思いました。ただ、主人公が、オーボエ奏者のリュージュのことを、ヘッセの詩から、自分と同じ共感覚の持ち主であることに気づくあたりが、唐突過ぎてわかりにくく、リュージュ自身の共感覚もどのようなものか、共感覚について、いろいろ疑問をいだきました。
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