第61回(2020年) 講談社児童文学新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2020.10.29

  • 小林深雪先生

    今回は、残念ながら本賞を出すことはできませんでした。最終候補作は、いずれも著者の「書きたい」という熱意は伝わってきましたが、児童文学新人賞では、読み手である子どもたちに「伝える」ことをさらに意識して書いて欲しいと思います。

    『小梅の七つのお祝いに』
    わたしがいちばんに推したのは、この作品です。主人公の小梅といっしょに冒険を楽しみました。生まれた時から持っている牛の絵のついた「おまもり」。そこに描いてある牛の「くろさん」が飛び出してきて、小梅を導き守ってくれるという設定がよかった。ただ「長すぎて散漫」という意見もあり、佳作ということになりました。

    『境界のポラリス』
    主人公は上海で生まれた中国人の少女です。母親が日本人と再婚したことで、日本人として高校に通っていますが、「自分は何者なの?」と悩んでいます。そんな中、自主夜間中学のことを知り、外国籍の子どもたちに日本語を教えることになります。大坂なおみさんや八村塁さんたちが世界で活躍する今、「国境を越え地球規模でものごとを考える」そのきっかけになる作品だと思い推しました。

    『びんのなかの夢』
    舞台となる離島の設定と「さかなにつままれる」という言葉は、おもしろいと思いましたが、テーマが絞り切れていないのが惜しいです。将来の夢なのか、高校生になったら島を出ていくことなのか、それとも過疎の学校や友達とのことなのか。また、離島ならではの生活を、もっと読んでみたかったです。

    『雅とナマケと妖怪退治!』
    子ども向けの「妖怪もの」は、小説でも漫画でもアニメでも、すでにたくさんの人気作品があります。軽やかな文章で読んでいて楽しいのですが、どこかで読んだような気がしてしまうのがもったいないです。鵺(ぬえ)や雪女など誰もが知る妖怪ではなく、オリジナルでユニークな妖怪を登場させるなど、「新鮮さ」「もうひと工夫」があるとよかったです。

    『八月の神様』
    少女と住みこみの男のお手伝いさんという設定が議論になりました。いくら浮世離れしている女優の母親でも、4歳のひとり娘の世話を街でばったり会った初対面の若い男性に任せるでしょうか? 少女と青年の二人にしか理解できない心の繋がりを描きたいという意図は理解できますが、そのためには繊細なエピソードを重ねていかないと、読み手は共感できず置いてきぼりになってしまいます。
  • 那須田淳先生

    今回の選考ではけっこう悩まされた。いずれも一長一短あり、「一押し作品」がみつからなかったからだ。それでも読んでいて引き込まれる作品はたくさんあって、いずれも可能性の原石みたいなものを感じさせてもらえた。

    佳作に選んだ『境界のポラリス』は、日本に暮らす外国にルーツを持つ子どもたちにスポットをあてたもので、ボランティアが運営する日本語教室を舞台に、子どもたちの疎外感、悩みや夢を掬い取った作品で好感が持てた。ただ主人公の不安の多くが内面部分の処理にとどまっているので、もう少し外部からのプレッシャーを書いてもよかったかなと思う。ただ多様性や差別の問題は大切なテーマでもあるので、子どもたちに読んでもらいたい作品でもある。

    同じく佳作の『小梅の七つのお祝いに』はストーリーティリングという点では十分に面白くわくわくしながら読めた。ただ僕が気になったのは、主人公の小梅が小学一年にしては、ここで描かれている内容がやや難解という点だった。これは幼年童話として削るか、ジブリ系のファンタジーにして膨らませるか、修正次第でなんとかなりそうではある。

    おしくも選外となった作品について少し触れておきます。
    『八月の神様』は、家政夫の青年と二人暮らしをする少女七瀬の思春期初恋もの。親が、見知らぬ青年に女の子の世話を託すという設定に強い疑問がわいた。性犯罪に巻き込まれる可能性を親なら排除するからだ。母親が女優だからではまずい。ただそこを修正すれば、筆力は買うのでラノベならいけそうである。

    『びんのなかの夢』は、島の子どもたちの日常をたんたんと描いたもの。島の生活が暮らしぶりだけで、風土や伝統などと絡めて描かれていないため平板になってしまった。また主人公が小6にしては文体や心理が幼すぎる。

    『雅とナマケと妖怪退治!』は、「怪」の邪気を祓うことを生業とする祖父に代わって、小学生の雅が鵺のナマケと子どもをさらう妖怪退治に加わる。エンタメとして魅力的だが、物語が構図的で、キャラクターもどこかステレオタイプなのが残念。また、主人公が事件とは別に、個人的に悩みを抱えていないのが弱い。
  • 茂市久美子先生

    『境界のポラリス』は、自分探しをする主人公が、外国籍の子どもたちのために自主夜間中学で日本語を教えるボランティアをしながら成長していく姿が、主人公の複雑な家庭環境などをからめて丹念に描かれていました。テーマがはっきりとしていて、最終選考に残った作品の中で一番良かったと思います。が、本賞に推すには、これまでの受賞作品と比べて完成度が足りませんでした。

    『八月の神様』は、作者の感性の豊かさが伝わってくる作品でした。しかし、中学三年の主人公が、お手伝いさんである三十代の男性と二人で暮らしていて、しかも、彼は、女優である母親が、娘が四歳のとき家につれてきて、娘の世話をまかせた人物であるという設定が、児童文学としてはどうなのだろうと、最後まで受け入れることが出来ませんでした。

    『びんのなかの夢』は、山の上に牧場がある小さな島という物語の舞台設定と、北極星を見るため友人とベーリング海まで旅行するという、宮沢賢治の童話を彷彿とさせる不思議なひとの話が印象に残りました。物語の流れが、全体的にぎくしゃくとしていたのが残念でした。

    『雅とナマケと妖怪退治!』は、妖怪や幽霊を退治する家に生まれた五年生の雅が、妖怪の鵺といっしょに冒険をする物語。不気味で恐ろしい鵺が、ユーモアたっぷりに描かれ、予想外の展開もあって、最後まで楽しく読みました。雅と鵺が活躍する続編をこれからも書いていってほしいと思います。

    『小梅の七つのお祝いに』は、大切なお守りをテーマに書いたことに大変好感をいだきました。しかし、物語全体が冗漫で、神社内の描写や、小梅が鷽にお願いをするところなど、気になるところが多々ありました。物語をもっと簡潔にして整理すれば、心に残るとても良いお話になると思いました
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