第62回(2021年) 講談社児童文学新人賞 選考経過・報告

審査員の先生方の選評(五十音順)2021.11.01

  • 安東みきえ先生

    『黒と白の対角線~おりがみおとぎ草子~』は折り紙に命を宿らせるという着眼の面白さで一歩抜きん出て本賞となった。町を巻き込む戦いも壮大。ただ白と黒の敵対関係の複雑さには一考の余地がある。

    佳作『星屑すぴりっと』は誰かを慕って離れない人を指す「ひっつきもっつき」という方言に心が温まる。読み心地の良さに推したが、自己犠牲という言葉への違和感が拭えなかった。

    同じく佳作の『カトリとまどろむ石の海』は二人の少女が 19 世紀英国を舞台に活躍する冒険ファンタジーで、世界観は充分に楽しめるものの終盤の見せ場に失速感もあった。

    『茶の道ヒーロー!』マイナーな部でマイナーな人々が奮闘する作品。生きづらさの原因を病気の羅列にせず、その先の物語をこそ読みたかった。

    『独りぼっち三重奏』学級カーストの酷な描写や人物の貶め方に容赦がないのに驚かされた。乱暴な部分もあるが、物語に向き合おうとする作者の熱量にはこれからの期待が持てた。
  • 如月かずさ先生

    最終候補作のなかでも、特に『カトリとまどろむ石の海』と『黒と白の対角線』には、選考委員という立場も忘れて夢中になってしまい、2 作とも本賞でよいのではと思いながら選考会に臨みました。

    結果として『カトリとまどろむ石の海』は佳作となりましたが、完成度の高さや舞台となる 19世紀エディンバラのいきいきとした描写には目を見張るものがありました。オリジナリティという点では難を指摘できるかもしれませんが、それを補ってあまりあるほどの魅力にあふれた作品でした。

    『黒と白の対角線』もまた非常に素晴らしいエンターテインメント作品でした。折り紙がテーマの和風ファンタジーにタブレットを活用するのもおもしろく、終盤の決戦場面も迫力がありました。後半の展開に緊迫感が乏しい点や、主人公の趣味や友達の扱いなど、まだまだよくできそうな部分もありますが、出版されたらたくさんの読者を魅了することは間違いありません。

    『星屑すぴりっと』はやさしくあたたかな物語でしたが、中学生の主人公の内面描写に、大人の作者の思考の押しつけを感じてたびたび強い違和感をおぼえました。主人公が善良すぎて成長や変化が描かれない点や、後半あまり活躍が見られない点ももったいないと思いました。出版の際は大幅な改稿が必要かと思いますが、頑張って素敵な作品にしてください。

    『茶の道ヒーロー!』は軽快な語りが読みやすく、茶道の描写も丁寧で興味を惹かれましたが、登場するキャラクターがどの人物も非常につくりものめいていて魅力が感じられませんでした。キャラクターを物語の装置ではなく生身の人間として扱い、彼らがどんなことを話しどんな行動を取るかを常に意識することが、魅力的な個性を描くために重要なのではないでしょうか。

    『独りぼっち三重奏』は異なる主人公による 3 話構成の作品でしたが、物語が本格的に動きだすまえに終わってしまったり、主人公を特殊な境遇に設定しながら展開がありきたりであったり、物語とテーマが嚙みあっていなかったりしたのが残念でした。3 話ともに、この主人公だからこその展開とメッセージが描かれていれば、魅力ある作品になったかもしれません。
  • 村上しいこ先生

    児童書も多様化の波にもまれる中、しっかりと地に足をつけたファンタジー作品が新人賞に選ばれた。主人公を取り巻く世界に新しいものを付け加えたかどうかでは「カトリとまどろむ石の海」に分があったと思うが、魂のよどみを描けているかという意味では「黒と白の対角線」に満たされるものを感じた。

    「星屑すぴりっと」は安心して読めたぶん、登場人物がみんないい人なので物足りない。

    「独りぼっち三重奏」は感受性や表現力が素晴らしいので大切にして欲しい。ただ三重奏というなら、もっと他のパートとのせめぎあいが必要ではないかと思う。

    「茶の道ヒーロー」は、まずこの作品をなぜ書くのかというところから始めて欲しい。でないと「読みやすくて好感が持てる作品」で終わってしまう。ヤングケアラーのつらさ、起立性障害のつらさ、場面緘黙のつらさを、「やっぱり私にはわからない」と思うレベルまでわかったうえで書いて欲しい。
講談社 児童文学新人賞 募集要項 講談社 児童文学新人賞 経過と報告 講談社 児童文学新人賞 既刊

おすすめの絵本

  • パンダ なりきりたいそう

    パンダ なりきりたいそう

    いりやまさとし/作

    「パンダなりきりたいそう はじめ!」
    何かになりきるのって、たのしい!
    さあ、絵本を見ながら、パンダといっしょに、おもいっきり体をうごかそう!

  • もったいないばあさん

    もったいないばあさん

    真珠 まりこ/著

    「もったいない」って、どういう意味?

    きょうも あの ばあさんが やって きた――もったいない こと して ないかい?

  • ほしじいたけほしばあたけ

    ほしじいたけほしばあたけ

    石川 基子/作

    タマゴタケやキヌガサダケ……いろいろなきのこが暮らすきのこ村は、いつもにぎやか。そんなみんなから敬愛されているのが、ほしじいたけと、ほしばあたけ。ある日、村の子どもが谷から落ちてしまい、それを聞いたほしじいたけは、体を張って助けようとするのですが……。

  • おやすみ ぞうちゃん

    おやすみ ぞうちゃん

    三浦太郎/作

    ぞうちゃんは、泣いたり笑ったり、おおいそがし。おやすみまでの一日を、ユーモアたっぷり、愛情豊かに描きます。シリーズ第3弾。

児童文学新人賞 既刊