子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第10回 文字や数は何歳から教えるべきでしょうか?


Q:
2歳10か月の女の子です。まだ早いと思っていたのですが、3歳になったら文字や数を教え始めるのが良いと先輩のお母さんに言われました。同じくらいの年齢の子どもたちを見ても、そうしたお教室や習い事を始める人が多く、九九を言える子がいたりすると、少し焦ってしまいます。もちろん将来的に賢い子どもにしたい、と思う気持ちもあります。その一方で文字や数は小学校まで教える必要はない、という考えも根強くあるようで、何が子どもにとって良いのかわからず、悩んでいます。

うちの子の幼稚園では教えてもらっていませんが、幼稚園や保育園でも積極的にドリルやワークを導入しているところもあるようです。モンテッソーリ教育でも、文字や数を幼児期から教えると聞きました。こうした知的教育は、早ければ早いほどいいのでしょうか?。




A:
早いうちから知的な習い事をさせておく方が、将来、役に立つのではないか、文字や数を小学校入学前に教えておかないと、ついていけなくなってしまうのではないか。そんなお気持ちは、親御さんとしては当然のことだと思います。3歳どころか1~2歳からのプリント教材も出ていますし、ひらがなばかりでなく漢字まで教える、計算の速さを競わせる、といった幼稚園も人気があると聞いています。身近にそういったお子さんがいると、よけいに焦ってしまいますね。

一方で、文字や数は小学校に入ってからちゃんと教わるのだから、幼児期には一切教える必要はない、先取りすることで、小学校での授業に関心が持てなくなる、といった早期教育反対論を唱える人も少なくありません。早くから教えると、変な鉛筆の持ち方やめちゃめちゃな書き順が身についてしまい、かえって修正が大変になる、それよりもじっと座っていられるような癖をつけておいてもらいたい、という小学校の先生方のご意見も聞いたことがあります。


▶文字に強い興味を持ち、楽しみにながら身に着ける時期


では、モンテッソーリは、文字や数についてどのように考えているのでしょうか。
第5回で「モンテッソーリ教育では、いつも子どもが出発点です。大人がやらせたいことではなく、子どもが何をやりたいのかをよく観察して準備しましょう」と書きました。文字や数についても全く同じです。いつ文字や数を学んだ方がいいのか、あるいは学ばない方がいいのかは、大人ではなく子ども自身が決めることです。ではその時期とはいつ頃なのでしょうか。

まず文字の方から考えてみましょう。実はモンテッソーリは、最初、読み書きを教えるのはできるだけ遅い方がいい、という先入観にとらわれて6歳になるまでは教えないつもりでいました。しかし、その先入観を捨て、客観的に多くの子どもを観察した結果、子どもが自然のプログラムに従って成長していく中で、文字に強い興味を持ち、楽しみながら身につけてしまう時期があることを発見しました。それが以前にも触れた「敏感期」で、「言語の敏感期」と呼ばれています。
言語は大きく分けて話し言葉(音声)と書き言葉(文字)に分けられます。話し言葉の敏感期については、第6回でも少し触れましたし、今回のご質問は文字についてですから、書き言葉、特に文字を書くことについて、モンテッソーリが発見したこと、文字に対する教育がどのように準備されているのかをお伝えしましょう。




▶書くという行為は運動のメカニズムと深く結びついている


モンテッソーリは多くの子どもを観察するうちに、書くという行為が運動のメカニズムと深く結びついていることに気づきました。書くときには3本指で筆記具を持ち、それを保持しながらも軽く決まった方向に動かすことが必要になります。そうした手の動きができないうちは、いくら文字を書かせようとしてもうまくいきません。逆にそうした運動の調整を喜びに満ち溢れておこなえる時期(運動の敏感期)を過ぎてしまってからでは、書くという行為が苦痛になってしまいます。

では、手が柔軟に動くようになり、しかも自ら動きを調整したがっている時期はいつかといいますと、個人差はありますが、モンテッソーリはおおよそ4歳前後と述べています。モンテッソーリ教育においては、言語教育の前段階として、日常生活の練習と感覚教育があり、そこでしっかりと手の準備ができるようにしています。

たとえば、家事には日常生活の練習ができる要素がたくさんあります。薄く切ったバナナや茹でて細く切ったにんじんを指でつまみ上げるには、繊細な動きが必要になります。本連載でもたびたび家事をおすすめしているのは、こうした効果もあるからです。

モンテッソーリ教育には、とても精密に作られた独特の感覚教具があります。長くなるので詳しい説明はできませんが、感覚的な刺激を受けるだけではなく、それらを3本指でつまんだり、軽く触れたり、枠をなぞったりすることが、書くための手の準備を助けるようになっています。



感覚教具は手の準備にもなっている


▶書きたいという欲求に応える方法


手の準備ができても、すぐに文字を書くわけではありません。
さらに前段階の教具がいろいろありますので、紹介しましょう。



・「砂文字板」
すべすべの板に、ざらざらしたサンドペーパーで切り抜かれた文字が貼ってあるものです。美しい文字を見るだけではなく、なぞって触れることで、字形を認識し、文字の再生が簡単になります。ひらがなの正しい書き順も覚えられます。



砂文字板 
左が空いているのは、子どもに正しい向きを伝えるため

砂文字板をなぞる4歳8ヶ月

最初の段階で、書き順をきちんと伝えることが重要です。また1つの文字に1つの音があることもわかります。黙ってなぞるのではなく、なぞった直後にその音を発音するからです。

・「移動五十音」
清音だけでなく濁音や促音など、すべての文字が複数枚ずつ、入っている箱です。まだ文字が書けなくてもさまざまな単語を構成することができます。単語だけではなく、文をつづることもできます。




移動五十音の教具と構成された単語


・「メタルインセッツ(鉄製はめこみ)」
 鉄の板に円や楕円などの図形がくりぬかれています。色鉛筆を使い、子どもでも枠に沿って簡単に美しい図形を描くことができます。さらにその中に線を引いたり、塗りつぶしたりすることで、自然と運筆練習になるものです。



メタルインセッツ(鉄製はめこみ)が言語の教具だと知らない人もいる


この3つは、実際には文字を書きませんが、次の段階で、筆記具をもって書くときに、とても役立ちます。
 こうした教具がなくとも、書くための手を準備しておくこと、筆記具を持つ前の段階があること、視覚だけでなく触覚や聴覚といった複数の感覚器官の助けを借りることなどを知っておくと、書きたいというお子さんの欲求に応える方法が工夫できます。
 私が監修した『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』には手を使うさまざまな工夫が載っていますし、鉛筆の持ち方や練習のしかたについても記載がありますので、こちらもぜひ参照して下さい。


▶「早く計算して正解にたどり着くこと」というイメージ


 次に数についてですが、子どもが「い~ち、に~」と数詞を唱えたり、数字を指さして読んだり、身の回りにあるものを数えたりといった姿は、特別な訓練をしなくとも、3~4歳頃にはよく見られるようになります。
 もちろん個人差はありますが、そうした姿から数への興味、つまり数の敏感期が小学校に入ってからではなく、幼児期にあるということはみなさんも納得されるでしょう。

 それに対応する方法として、一般的には、お風呂で100まで唱えさせたり、数字のカードを与えたり、プリントで計算をさせたりすることが多いかと思います。またご質問にもあるように、九九や簡単な暗算を教え込むこともあるでしょう。

大人はどうしても、数といえば「早く計算して正解にたどり着くこと」というイメージがあります。また私もそうですが、数学が苦手という親御さんが多いので、自分のような苦労をさせないように、という思いがあるようです。
もちろん、早いうちから計算を身につけさせれば、それはひとつの優れた能力となりますし、それをきっかけにして算数や数学が好きになるということもあるでしょう。




▶子どもには生まれながらの数学的精神がある


ただ、モンテッソーリ教育では、全く異なるアプローチをします。なぜならモンテッソーリは、子どもには生まれながらの数学的精神があると考えていて、幼児期には数の世界の素晴らしさを紹介し、計算よりも概念を伝えることを重視しているからです。
たとえ100まで唱えられたとしても、それで100までの数がわかっているとは言い切れません。モンテッソーリ教育では、数量(具体量)、数詞、数字、の3つが一致したとき、その数がわかると捉えています。もっとも重要なのは具体物である数量から入ることです。

子どもが幼いうちは、具体物、つまり、縦横高さがあり、触って感じることができる物に触れることが大切です。そのことは、大人も理解しやすいでしょう。ところが、知的教育になったとたん、大人は文字や数字といった完全抽象の世界に慣れているため、それをそのまま子どもに伝えようとします。

しかし、子どもは具体から半抽象を経て、ようやく完全抽象へと進んでいくのが、自然でわかりやすい学び方です。そのため、モンテッソーリの数教具には、さまざまな形態の数量が準備され、繰り返し、数詞や数字との一致ができるような仕組みになっています。




数量・数詞・数字を一致させる教具の一例 


一般的には、幼児期には10まで、せいぜい100までの世界で十分という考えのようです。モンテッソーリ自身も最初は同じ考えをもっていたため、4桁の数を扱う教具を小学生向けに作りました。
ところが、実際に金色に輝くビーズの教具に熱心に取り組んだのは4歳児だったと、モンテッソーリはその驚きを記載しています。4歳児は十進法に熱狂し、6歳までに4桁の加減乗除を単なる計算だけではなく、概念として身につけていったのです。



ビーズとカードで4桁の演算ができる


▶敏感期の子どもだけが持っている素晴らしい力


数の敏感期にある子どもたちが、それを満足させてくれるものに出会ったときの熱意と根気、集中力は途方もないものです。私もその様子を何度も見聞きしたことがあります。前回、おやつよりも紐を結ぶことに熱心だった子どもについて書きましたが、数への興味はそれをはるかに超えるものです。下の写真をご覧下さい。



1万まで書いた数字の巻物
これは教具ではありません。教具に十分に触れ、数字を書きたいという子どもの欲求に応える自由な教材です。


これは、さまざまな教具を経て、数字を書くようになった子どもが自主的に選んで取り組む「数字の巻物」というものです。
 4桁のマス目がブランクになっている紙がたくさん準備されています。10個数字を書くと、いっぱいになり、次の紙を自分で糊付けして続きを書いていきます。好きなだけ書いていいし、どこで止めることも自由です。もちろん一日で終わるものではなく、興味の赴くままに来る日も来る日も子どもは書き続けます。
 子どもによってどこで終わりになるかはさまざまですが、私の勉強会の卒業生から送っていただいた写真がこちらです。



重さ600グラムの数字の巻物は敏感期の証


年少から小1になるまで書き、なんと1万まで続けました。その太さは15センチの箱いっぱいになるほどで、いったんほどくと、全部巻きなおすには1時間もかかるとのことです。これは大人が強制してできることでもなく、また大人ができることでもありません。敏感期の子どもだけが持っている素晴らしい力であり、正しく援助することでその力が発揮されるという証でしょう。
 また、家事の中にも数の要素はたくさんあります。そらまめや枝豆を剥いて中に入っている実の数を数える、カップ2杯や小さじ3杯などを実際にやってみるなど、意識して取り組んでみるといいでしょう。


生活の中にある数量 砂糖を量る4歳9ヶ月


具体的な体験は確実に子どもの中に根付き、知的教育の土台となります。しかし、いきなり抽象や半抽象の世界から入ると、学ぶことが嫌になったり、途中でつまずいたりすることがあります。
大切なのは、なにごとも大人の物差しで判断するのではなく、子どもの自然な発達の中に答えを見つけることではないでしょうか。それがもっとも子どもにとって良いことであり、親子関係もうまくいく秘訣だと思います。

モンテッソーリで子育て支援
エンジェルズハウス研究所 田中 昌子





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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