子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第21回 新しい時代の教育とは?



Q:
もうすぐ6歳になる男の子がいます。高齢出産の一人っ子なので、良い学校や良い会社に入れるように、幸せな人生を送れるようにと、生まれたときからさまざまな早期教育を実践してきました。ところが以前までは素直に取り組んでいたパズルやワークに興味を示さなくなり、態度もどんどん反抗的になって、原因がわからず対応に困っていたところ、偶然モンテッソーリについて知りました。GoogleやAmazon、Facebookといった時代の最先端の創業者が受けていた教育と聞き、これからの時代は、私たちが受けていた教育とは全く違った新しい教育が必要なのかもしれないと思うと、急に不安になりました。これからの時代にふさわしい教育とは何か、また、6歳の息子に今、必要なことを具体的に教えてください。


A:
いつの時代であっても親の想いは同じです。子どもに幸せな人生を歩んでほしい、そのためにできることは何でもしてあげたい、というのは、誰しも思うところです。質問者さんも、大切なお子さんのために、一生懸命頑張ってこられたのですね。

一方で時代は大きく変わっています。昔は空想の世界に過ぎなかったことが次々と現実になり、今の子どもたちが大人になる頃の世界は、想像することすらできなくなっていますから、不安にかられるのも無理はありません。


フィンランドの教育


では、これからの時代にふさわしい教育とはどのようなものでしょうか。2000年代に学力調査ランキング上位国として一躍脚光を浴びたのが、フィンランドの教育でした。

テストのために必死で勉強させる国の学力が高いのは、ある意味当たり前です。ところがフィンランドは授業時間数が少なく、統一テストを廃止、長期休みの宿題や選択式のテストがないにも関わらず、2003年の調査では読解力と科学の知識を試すテストで1位、数学の知識 や問題解決能力についても2位だったことから、世界が驚いたのです。

その教育の特徴を、映画監督マイケル・ムーアがフィンランド教師に取材をした映画の映像からまとめてみると、以下のようなものでした。


1、子どもが主体であり、子ども一人ひとりを個別の人間として尊重し、対応している。
2、五感を十分に使えるよう、机の上の勉強だけでなく体験することを大切にし、音楽、美術、体育、料理などにも時間をかけている。
3、自分も他人も尊重できる人間を育て、幸せに生きる方法を見つけられるよう、教師が手助けをする。
4、問題意識を持って自分で考える子どもを育て、選択式ではなく記述式のテストにしている。
5、さまざまな境遇の子どもが一緒に育つ環境を通して、大人になっても相手の境遇を尊重できる。



これらは驚くほどモンテッソーリ教育と共通しています。こうした考え方が、これからの時代の基本的な教育方針として大切になるでしょう。

文部科学省も、(1)十分な知識・技能、(2)答えが一つ に定まらない問題に自ら解を見いだしていく思考力・判断力・表現力等の能力、(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度の3つを、今後身につけるべき要素として挙げています(高大接続システム改革会議「最終報告」平成28年3月31日より)。



これからの時代にふさわしい教育の鍵


モンテッソーリ教育の考え方に基づけば、これからの時代にふさわしい教育の鍵は2つです。

ひとつは、「子ども自身が考える」ということ。言われたことをマニュアル通り間違いなくこなすことについて、人間はロボットにかなわないでしょう。人工知能は学習能力がありますが、それは過去の膨大なデータを分析することで次にすべきことを見つけていくのです。

ですから、これからの時代に必要とされる人間は、まだ見たことも聞いたこともないような全く新しいものを創造できる人、科学者や研究者のように試行錯誤を重ねて新しい発見にたどりつく人です。
  
そうした人間に育つためには、幼少期から自分の手と五感を使って選び、自分の頭で考え、できた! という経験を積み重ねていくことが重要です。

もうひとつは、「幸せな人間関係を学ぶ」ということ。電車の中ではスマートフォンの画面だけを見ている、家族や友人とはラインで会話をする、買い物やレストランの注文もボタンを押すだけ。こうした時代だからこそ、人間同士のつながりというのは重要であり、幸せな人生の鍵となります。

子どもは誕生とともに母子の信頼関係を築くことで、最初の人間関係を学びます。その後、家庭や園などで他の子どもや大人を通して人間関係の在り方を身につけていくのです。第4回では提示、やってみせることについてお伝えしましたが、人との関わり方というのもまた大人が提示すべきことです。



反抗的な態度をとる理由


6歳のお子さんが、ワークやパズルをしたがらず、反抗的な態度をとるようになった理由は、2つ考えられます。

1つは、それらはお子さん自身が選んだものではなく、お子さん自身の成長には今、必要なものではないと判断したから。大人が子どもに良かれと思って与えるものは、大人の目線で選んだものであり、子どもにとっては不要であることも多いのです。

もう1つは、もっと広い世界を見たいのに、環境に必要なものがないから。子どもは、そこにある環境を征服して自分の発達の手段としていくのですが、その環境はどんどん広がっているのです。

たとえば、胎児にとっての環境は子宮の中であり、狭い世界で限定された活動しかできませんでした。それが、誕生後は家庭内となり、母体よりは広くなりますが、新生児はまだ一人で移動することはできません。ハイハイや歩けるようになると、家庭やその近辺という身の回りの環境を征服していき、動きの獲得とともに、活動の範囲は広がっていきます。

そして6歳という時期は児童期への入り口で、その興味関心は一気に世界へと広がっていくのです。




6歳は文化の敏感期


6歳前後の子どもは想像力が発達してきます。想像力というのは、目の前にないものをイメージできる力であり、しっかりとした実体験に基づくもので、単なる空想ではありません。ですから、フィンランドの教育でも、モンテッソーリ教育でも、6歳まではバーチャルの世界ではない豊かな実体験を大切にしているのです。

モンテッソーリは、「宇宙の計画に直面する六歳児」という言葉を使い、「この時期はあらゆるものの種子がまかれるときであり、子どもの精神はちょうどよく肥えた田畑のように、文化の中へ芽を出すものを受け取る用意ができているのです。」(『モンテッソーリの教育・六歳~十二歳まで』マリア・モンテッソーリ著 吉本二郎・林信二郎訳 あすなろ書房)と述べています。

6歳は「文化の敏感期」という時期にいるのですが、なかなかそれに気づく大人はおらず、欲求不満の状態にあることがよくあります。年長児が落ち着かないときには文化教育を、とモンテッソーリ園ではいわれるほどです。ですからモンテッソーリ教育では、「文化の敏感期」に文化教育を行います。文化教育の内容は膨大ですが、2つの大きな流れを理解しておくとわかりやすいでしょう。


1、具体から抽象へ

第10回の数の項目でもお伝えしましたが、文化教育でも同じです。出発点は手で触って感じることができる3次元のものです。

直接体験することが難しいものも多くありますが、その場合には、モデルを使います。


地球の構造 具体から抽象への流れがよくわかる

これは「地球の構造」という提示で、地球の内部を子どもたちに見せるものです。スポンジでできたモデル(具体)、絵カード(半抽象)、説明文(完全抽象)といった順で、子どもに提示していきます。
他の内容も同じで、たとえば「たいしょう地形」では、このようになっています。

たいしょう地形 水と粘土で作ったモデル→手と五感に訴える立体カード→絵カード→説明文

文化教育の内容は、ともすると図鑑や本といったもの に頼りがちですが、具体から抽象へという流れ で学ぶことで、子どもの中に、単なる知識としてだけではなく、生きた学びとして蓄積されていくのです。


2、全体から部分へ

一般的には、まず小学校1年生で学校探検があり、次にわが町探検、そして市や区、都道府県、日本、世界へと進めていきます。身近なところから始める方がわかりやすい、という考えです。

モンテッソーリ教育ではその逆で、世界よりも大きな宇宙からスタートします。

墨汁と銀ラメで宇宙に星がどのように誕生したかを見せる

壮大な宇宙を想像する子どもたち

ビッグバンから見せるところもありますが、こちらは宇宙を見ているところです。

地球は太陽系の惑星のひとつ

地球から大陸へ 球体→半球→平面へという流れ

その後、太陽系、地球、大陸、国、地方、都道府県といった順で進めていきます。そうすることで、全体における位置づけ、立ち位置というものが明確になり、大きな視野でものごとをとらえられるようになります。(注:モンテッソーリ園や教師養成コースによって内容や進め方が異なる場合があります。)


目の前の子どもから学ぶ


モンテッソーリ教育ではこういった方法で興味の種蒔きをしていき、子どもの尽きることのない興味関心に、応えているのです。

ただ、この文化教育を含めた、系統立ったモンテッソーリ教育を受けられる場所は限られています。ここでは、今すぐできるお子さんへの対応もお伝えしておきます。

まずは目の前のお子さんから学ぶことが大切です。大人が押し付けるのではなく、どのような広い世界に関心を持っているのか、自然と対話するようにして見つけてあげましょう。
月や星、あるいは昆虫や植物でしょうか。目の前にないものを想像できるというのは、空間だけではなく、時間も含みますので、恐竜や古代生物に興味を持つ子どもも多くいます。


アンモナイトや恐竜の歯は中生代

興味のタネを見つけたら、まずは実体験をさせてあげましょう。もちろん実際の恐竜に会うことはできませんが、博物館、科学館では実物大の模型や歯などに出会えます。手と五感を使って学べるような工夫をしましょう。

そのあとは、子どもが自分で調べたいという気持ちが高まりますので、図鑑などの材料を一緒に探し、あとは見守るだけです。子どもは自らどんどん学んでいくことでしょう。

いかに時代が変わろうとも、子どもの本質、子どもの発達というものは変わりません。寝返りをする前に歩き出す子どもはいませんし、1歳で会話ができる子どももいませんね。

モンテッソーリ教育というのは、子どもの発達を観察し、子どもの発達段階応じて必要な援助をするという教育方法です。つまり、そこには時代を超えた普遍的な理念があり、常に「新しい教育」として「新しい人間」を育てることができる教育なのです。

人間は幸せになるために生まれてきました。子どもたちが幸せな人生を送るためには、大人自身も幸せな日々を過ごすことです。どうなるかわからない未来に不安を抱くよりも、目の前のお子さんの今、かけがえのない時間を大切にしてください。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 






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