子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第25回 自閉傾向の子どもの教育はどうしたらよいのでしょうか?



Q:
4歳の男の子です。発達に遅れはないが自閉傾向の性格だと医師から言われています。集団の中で生活はできても、運動会、お遊戯会、お当番などは嫌がり、怒っても優しく誘っても抵抗します。極端な怖がりの部分もあり、どうしたらいいものか悩んでいます。

また、癇癪も酷く、周りの人が子どもに声をかけてくれるのですが、さらにヒートアップしてしまうので、変な子だと思われてしまうのではないかと、不安です。モンテッソーリでは、こうした性格の子どもの教育はどうするべきと考えていますか?


A:
みんなと一緒に何かができない、周りが気になるほどの癇癪を起こされると、お母様は気が気ではありませんね。どうしたら他の子と同じにできるのだろう、変な子と思われたくない、というお気持ちは当然のことかと思います。自閉症スペクトラムなどの診断がはっきりつくお子さんだけではなく、そうした傾向があるお子さんも含めて、生き難さを抱えているお子さんを持つお母様は、私の勉強会の会員の方の中にもいらっしゃり、よくご相談をいただきます。

実はモンテッソーリ教育の原点は、特別なニーズを持つ子どもたちへの教育にありました。モンテッソーリはローマ大学医学部で学んだイタリアで初めての女性医師でした。モンテッソーリがこの教育を確立するきっかけとなったエピソードについては、第7回でお伝えしましたが、モンテッソーリが最初に出会ったその子どもたちは、発達に遅れのある子どもでした。

発達に遅れのある子どもたちへの教育で大きな成果を挙げたモンテッソーリは、その教育方法をすべての子どもに適用したらどうなるだろう? と考え、1907年にローマに最初の「子どもの家」を設立しました。それが現在まで続いているモンテッソーリ教育です。ですから、モンテッソーリ教育には、すべての子どもに適応できる原理が含まれています。


▶「子ども」という大きな枠組みでとらえる


モンテッソーリ教育では、まず全体を捉え、それから部分へと進みます。したがって、まず「子ども」という大きな枠組みで捉えることが大切です。「子ども」とは、宇宙的な使命を持つ大切な一個の人格であるということを、まず考えるのです。

障害があるとかないとか、優秀とか劣っているとか、金持ちの子どもや貧乏人の子どもといった、一切の先入観を持たずに、モンテッソーリは子どもを観察しました。そして、一人一人の子どもの発達は違うこと、それぞれの子どもに合った援助が必要であることを発見し、子どもの自由選択を出発点とするモンテッソーリ教育が確立されていったのです。


やりたいことはそれぞれ違う。スナップとネジのお仕事

日本でも近年になって「インクルーシブ教育」という言葉が聞かれるようになりました。個別の教育的ニーズがある子どもも、ない子どもも、共に学ぶといった考え方です。共生社会の形成や、人間の多様性の尊重と言った観点から、こうした方向性がやっと打ち出されるようになってきたのです。

また「主体的・対話的で深い学び(アクティブラーニング)」といった教育を目指す動きも出てきて、従来の一斉教育から、より個人を重視する教育へと変わりつつあります。これらは、100年以上も前からモンテッソーリが持っていた視点です。

▶人間はみんな違っている


この視点に基づいて、御質問にお答えします。

まず、みんなと同じでなければダメ、同じことができないのは劣っていることである、という視点を変えることから始めましょう。人間とは、そもそもみんな違っているのが当たり前なのです。


筆者と子どもたち 違うからこそ個性が輝く

環境に適応しながら自分で自分を作り上げていく、人格を形成していけるのが、人間だからです。性格の偏りも、人間である以上、どのお子さんにもあるものです。

あるお母様は、元気が良すぎて乱暴でもう少しおとなしくならないものかと悩んでいらっしゃり、別のお母様は、引っ込み思案でおとなしくてもう少し元気よくならないものかと悩んでいらっしゃいます。無い物ねだりをしていても悩みは尽きません。

そうではなく、あるがままのあなたでいいと、お子さんの存在そのものを認めてあげましょう。そこからモンテッソーリ教育は出発するといっても過言ではありません。


▶子どもについて知ることが重要


モンテッソーリ教育においては、子どもについて知ることが重要です。お子さんの行動にはすべて理由があることを理解しましょう。運動会、お遊戯会といったみんなで同じ動きをしなければならないものについて、子どもは見て模倣することが得意ですが、自閉の傾向があるお子さんは真似をすることに苦手意識があるようです。

あるいはいつもと違うこと自体が嫌、という場合もあります。お当番が嫌というのも、これに当てはまるかもしれません。極端な怖がりとのことですが、もしかすると感覚の過敏性があるからかもしれません。

モンテッソーリ教育でも感覚教育といって五感に関わる教育がありますが、自閉の傾向があると、普通なら気にならないような音でも気になる、触られることが嫌といったいろいろなパターンがあるようです。どういった感覚の過敏性があるのか、注意して見極めてあげましょう。

癇癪が起きる要因も、いくつか考えられます。第2回で魔の2歳児ではなく、いつもの場所やいつもの順序にこだわる「秩序の敏感期」というお話をしました。敏感期は限られた時期だけですが、自閉の傾向があると、こだわりがとても強い状態が続くため、それが崩れるとパニックを起こしてしまうようです。

また、いったん癇癪を起してしまうと、もう誰の言葉も耳に入らなくなってしまうという傾向もあります。子どもについての知識を持つことはとても大切ですから、質問者さんも自閉傾向の性格と、それがどのような行動につながるのかを、ぜひわかってあげていただきたいのです。


▶他の子どもにはない輝く姿


モンテッソーリ教育では、子どもの発達段階や現在の状況に合った援助を考えます。目の前のお子さんについて、具体的にどのような対応が正しいのかは、診断をされた医師や専門家に相談されるのが良いと思いますが、たとえば、動きについては鏡を見せる、スケジュールをあらかじめ伝える、予定を目で見てわかるようにしておく、といったことは有効だとされています。


音に対して過敏な場合には耳栓を準備しておく、癇癪が落ち着くようなお気に入りのタオルなどを持ち歩く、といったことも心がけておかれるといいでしょう。

また特性として、興味を持ったことにはとことん関わる、作業を繰り返す、数字や配置などについての記憶力がよく完全に再現できる、といった傾向を持っていることもあります。良いところを見つけてあげて、そこを伸ばしてあげられるような関わり方をすると、そのお子さんなりの成長を遂げていくことができます。

命というのは、そこにあるだけで尊いもので、掛け替えのない唯一無二の存在です。

この世に生を受けた日 あるがままで尊い命

日々大変なことも多いかと思いますが、他のお子さんと比較せず、今のお子さんを見つめ、成長したい、生きたい、という思いを受け止め、適切な援助をしてあげてください。

それによっていつの日か、他のお子さんにはない輝く姿が見られるのではないでしょうか。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。 






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