子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第4回 言うことを聞かない子どもたちへの対処法


Q:
5歳1か月の長女と2歳2か月の長男がいます。どちらも言葉はわかっているはずなのに、いくら叱っても聞く耳を持ちません。

長女は、トイレや食事、片付け、着がえなど、何も自分からやろうとしません。やっても雑なので、物で釣ったり脅したりして最後までさせる、という感じです。長男は迷惑なことばかりするので、毎日ダメダメを言い続け、最後は叩くしかありません。どうしたら2人が素直に言うことを聞くようになるのでしょうか?



A:
子育ては本当に大変ですね。ご質問の方だけではありません。町を歩けばあちらでもこちらでも「何度言ったらわかるの!」「なんで言うこと聞かないの!」という声が聞こえてきます。また私の勉強会に参加されている方からも、「どんな言葉がけが効果的ですか?」といったご質問が非常に多くあります。


でも残念ながら、大人が何度繰り返しても、子どもにはなかなか伝わりません。いくら言葉を尽くしても、言葉がけを変えてみても、子どもがその言葉を聞いて「なるほど、そうしよう」と動くことはまずありません。なぜでしょうか?



▶子どもは動きながら学ぶ


2つの側面から考えてみましょう。

1つめは伝える方法です。大人は言葉で伝えられ、理解することに慣れています。大人の学び方は、ほとんどが言語を介するものと言っていいでしょう。本を読む、講義を聞く、話し合う、レポートをまとめるなど、どのような場面でも言語が存在しています。そのため、大人は子どもに対しても、言葉で伝えようとしてしまうのです。

でも、子どもの学び方は違います。モンテッソーリは教師養成コースの講義を始めるとき、「子どもは動きながら学ぶ」と最初に言ったそうです。これは、モンテッソーリが多くの子どもを観察して発見したことでした。モンテッソーリ教育では、提示(提供)というプレゼンテーション、つまり「やってみせる」ことで子どもに「やりかた」を伝えます。前回記事でも、「片付けなさい!」と叫ぶ代わりに、片付けをやってみせると書きましたね。

ただ、「やってみせる」ためには、ちょっとしたコツが必要です。

まず、あれもこれもと欲張らないで、伝えたいことを1つに絞ります。たとえば、「お茶を注ぐ」ならば、「注ぐ」という動作だけを取り出しましょう。大人と同じようにパパっとやってみせても、子どもにはよくわかりません。どこにどのように指をかけるのか、持ち上げたらどのように移動するのか、どのくらい傾けるのか、どのように戻し、どのように置くのか、といった具合に動作を分析してみます。

モンテッソーリ教育関連の本には「8倍スローダウン」と書いてあるので、スローモーションですることだと勘違いしている人もありますが、そうではありません。大人がほぼ同時に行っている動作を1つずつ明確に切り分けて行うことが大切です。こうすることで、ゆっくり、はっきり、子どもにわかりやすくなるのです。


注ぐの提示に必要な準備

注ぐという動作だけに集中

一人でお茶を注いで飲む 2歳5か月


▶動作と言葉は別々に


そして重要なのが、動作と言葉を同時にしないことです。大人は、「こうやって、それからこうやって、ほら、ここを持つのよ。」と口で説明しながら動きを見せようとします。大人にはその方がわかりやすいこともありますが、子どもは集中できません。言葉を聞くためには聴覚、動きを見るためには視覚を使いますが、複数の感覚器官を同時にはたらかせることは、小さな子どもにはまだ難しく、混乱してしまうのです。

もちろん一切しゃべってはならない、というのではありません。

「これはピッチャー、これはコップ。」と名称は明確に伝え、「じゃあ、お茶を注いでみるから見ていてね」と短く的確な言葉で誘ったら、あとはもうしゃべらないで、動作に集中します。動作を見せるときには丁寧に心を込めることが大切です。精密で正確な動作ほど、子どもは惹きつけられます。動作が終わったら「やってみる?」と聞いてあげましょう。

同じようにできなくとも、あからさまに訂正してはいけません。モンテッソーリは「教えながら教えなさい。訂正しながらではありません」と言いました。子どもは、大人と同じようにやってみたいという気持ちがあっても、すぐにうまくできるようにはなりません。繰り返しやってみることで、少しずつ自分のものにしていきます。

気長に見守り、どうしてもうまくいかない時にだけ、「じゃあ、もう1回見ていてね」と正しい動き方を見せてあげましょう。できなかったときに「ほら、できないじゃない。」と指摘するのではなく、できたときにこそ、「できたねえ。」と共感してあげることが大切です。



▶大人と子どもの戦い


2つめの側面は、もっと根本的な内面の発達という問題です。大人はどうしても子どもを自分の都合に合わせて、大人の思う通りに育てようとしてしまいます。それに当てはまらないときには、外的抑圧によって子どもを動かそうとします。モンテッソーリは、これを「大人と子どもの戦い」と呼び、そこにこそ問題の根っこがあると考えました。

ここでご質問の2人のお子さんの様子を見直してみましょう。5歳の長女は自分から何もやろうとしない、2歳の長男は迷惑なことばかりする、という点に問題解決の鍵があります。

モンテッソーリは、子どもには自然のプログラムがある、と述べています。2歳の長男がする大人にとって迷惑な行為とは、たとえば引き出しを全部開ける、物を落とす、穴を見れば投げ入れる、蛇口をひねる、といった行為ではないでしょうか。

これらはすべて子どもが自分自身を作り上げていくために欠かせない行為、すなわち自然のプログラムに沿って溢れ出てくる子どもの生命力の表れです。子どもは手と五感をフルに使うことによって、自分自身を作り上げていこうとしています。それをダメダメと禁止したり、叩いて言うことを聞かせたりしていると、だんだんと意欲や自発性がなくなってしまいます。

5歳の長女がなぜ自分から何もやろうとしないのか、その理由もここにあります。3歳までの幼児前期に自分自身を作り上げようとする力を妨げられると、4~6歳の幼児後期になって、いろいろな問題が生じてくるのです。




▶「やった!」「できた!」が次につながる


でもあきらめる必要はありません。原因がわかればおのずと解決方法も見つかります。まず2歳の長男をよく観察してみて下さい。何に興味があり、何をしたがっているのかを見つけましょう。そうしたら、それが大人の迷惑にならないような方法でできないかを工夫してみましょう。

子どもは、大人に迷惑をかけたいわけではありません。その動きに興味があり、その動きがしたいだけですから、別の方法でそれが繰り返しできるならば、それに集中します。手と五感を思う存分、使えるようになれば、幼児前期の子どもはびっくりするほど素直になります。



スピーカーに綿棒を突っ込む迷惑な行為

綿棒落としに変えてあげれば大丈夫

乾麺を叩いて砕く 1歳3か月

小さいものをつまんで落とす 2歳8か月

幼児後期の長女の方が時間はかかるかもしれませんが、家事の中にある魅力的なお仕事をさせてみましょう。私が監修した『こどもせいかつ百科』(講談社刊)にたくさんの事例がイラストで載っていますので、参考にしてください。ひらがなが読めれば、子どもでも理解できるように、すべてにルビが振ってあります。幼児後期の子どもたちは、特に指示命令を嫌がりますから、黙って本を差し出す方が効果的です。

『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』

適切な準備さえしてあげれば、あとはどんどんやってくれるようになることでしょう。「やった!」「できた!」という体験が、次への意欲につながるのです。やってもらうのが当たり前、やらせてもらえなかった子どもは、年齢を重ねても、なかなかできるようにはなりません。

テーブルを布巾で拭く 4歳8か月

卵を割る 4歳9か月

靴あらい 4歳4か月女

そして、叩く、脅す、物で釣る、といった外的抑圧で子どもを動かしていると、それが通用しなくなったときには、どうなるかを想像してみましょう。

大人は小さな子どもに対して圧倒的な強者ですが、いつまでもそのままではありません。いつの日か強者になった子どもは、自分を抑圧してきた大人や他の弱者に対して、同じような抑圧を加えるようになってしまいます。

「大人と子どもの戦い」をやめて、自然のプログラムに沿って、よき援助をしていくことで、きっとお子さんは素直になり、家庭の中も、この社会も、平和に包まれることでしょう。子育ては、平和の鍵を握っている、とても重要な仕事なのです。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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