子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第5回 集中力を付けさせる方法はありますか?


Q:
3歳11か月の男の子です。いつも落ち着きがなく、集中力がありません。何かを始めてもすぐに飽きて投げ出し、最後までできた試しがなく、食事中もよそ見ばかりしていくら注意しても食事に集中できません。将棋の藤井聡太四段はモンテッソーリ教育を受けて集中力を育てたとありましたが、何をさせればあのような集中力がつくのでしょうか?


A:
藤井聡太四段をきっかけに、モンテッソーリ教育が注目を集めるようになりました。藤井四段は、幼少期にハートバッグという手作りの編み込みバッグ作りに夢中だったと新聞で報じられ、ネット上には、ハートバッグの作り方がアップされたりしています。「うちの子も作れました!」と続々報告も寄せられましたが、残念ながら同じものを100個作らせても、集中力がつくわけではありません。


集中は、モンテッソーリ自身も「すべての教育の鍵がここにある」と述べているほど重要なことです。そして集中を促すためには、さまざまな配慮が必要だということを研究から発見しています。


まず必要なのは、子どものために整えられた環境です。子どもが日頃どれほど不自由な暮らしをしているのかを理解するために、私たちが巨人の国に突然連れていかれた状況を想像してみましょう。
身の回りにある何もかもが大きすぎて、手が届かなかったり、重くて動かせなかったり、いちいち助けを呼んでやってもらわなければならないとしたら、どうでしょうか。集中どころか、やってみたいという気持ちも失せてしまいますし、自分の無力さがみじめですね。

また巨人たちは、美しく魅力的な品物を使っているのに、自分にはみすぼらしい安物しか与えられなかったら、とても悲しいですし、注意深く大切に扱おうとは思わないでしょう。

ですからモンテッソーリ教育では、すべてのものが子どもサイズであることはもちろん、自分で移動できるように軽く、子どもが扱いやすいものを吟味して、子どもが生活する環境に準備するのです。明るい色で統一するのは、汚れやシミにすぐに気づけるようにするとともに、「私を使って!」と子どもに「もの」が呼びかけるようにするためでもあります。さらにガラスや陶器といった本物を使うことで、子どもは真剣に集中してそれらを扱おうとするようになります。



やってみたくなる明るい色の環境

低年齢でも本物を (フラワーアレンジメント)

モンテッソーリ自身がデザインした椅子


▶子どもの敏感期に合った適切な活動をする


次に必要なことは、敏感期に合った適切な活動です。敏感期というのは、環境の特定の要素に対して、特別に敏感な感受性を発揮する、ある限られた時期のことです。

モンテッソーリは子どもを観察することで、子どもにはさまざまな敏感期があることを発見しました。第2回では秩序感についてお伝えしましたが、ご相談の3歳11か月の子どもでしたら、感覚の敏感期(特に感覚を洗練させること)と運動の敏感期(獲得した動きを調整すること)です。

特に家事には興味を持って取り組めることがたくさんありますから、料理、掃除、洗濯などができるような活動を準備して、第4回でお伝えしたような提示をしてあげるといいでしょう。私が監修した「こどもせいかつ百科」の中には、どういった準備が必要か、どのように動きを見せればよいのかが、細かく解説してありますので、参考にしてください。

繰り返し包丁で切る 3歳

『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』


▶子どもがやりたいと思い、自分で始めることがもっとも大切


そして何より大切なのは自由選択です。ご相談の中に「何をさせれば」とありましたが、そもそもここが違っています。

子どものために何かしてあげたいと熱心な人ほど、良かれと思ってあれこれさせてしまうことがあります。でも、大人が強制的にさせるのではなく、子どもが自分自身でやりたいと思い、自分で始めることがもっとも大切です。子どもは自ら選んだことだからこそ、全身全霊をかけて取り組めるのです。

モンテッソーリ教育では、いつも子どもが出発点です。大人がやらせたいことではなく、子どもが何をやりたいのかをよく観察して準備しましょう。自分の成長に何が必要なのかは、子ども自身が一番よく知っているのです。


▶大人に邪魔されずに、子どもが自分で選んだことを無心に繰り返すことができて、初めて深い集中の状態になる


子どもが自分で選んで始めたあとも、配慮が必要です。なぜなら子どもは同じことを何度も何度も繰り返すものですが、多くの大人はそれを見守ることができないからです。

たとえば机を拭いたり、ドアを開けたり閉めたり、といった行為は、1回すれば事足りるものですから、それらを繰り返すことは、大人にとっては無意味に思えます。少しの間は大目に見ていても、「さあ、もういいでしょう。」と必ず途中で介入し、止めようとします。それでもやめないときには、「いい加減にしなさい!」と大人の強権を発動して強制的にやめさせます。

戸を閉める0歳児

戸を開ける0歳児

でも実はそのとき、子どもは自分自身の内面を発達させるための重要な仕事をしていたのです。大人は綺麗にすることや外に出ることが目的ですが、子どもは活動すること自体に目的があります。繰り返すことで、自分の中に確かなものを1つずつ積み上げていく、それを途中でやめさせるのは、鬼が出てきて子どもがせっかく積んだ石を崩すような行為だと、モンテッソーリは日本の古い風習になぞらえて説明しています。

大人に邪魔されずに子どもが自分で選んだことを無心に繰り返すことができて、初めて集中現象が起きます。集中現象とは深い深い集中であり、周りのことが一切関係なくなるほど、没頭している状態です。

掛けるという動作を繰り返す子ども 1歳10か月

はさむという動作を繰り返す子ども 1歳9か月

たとえば食事をとることも忘れて研究に没頭していたというニュートンや、戦争中もひたすら幾何学に熱中していたアルキメデスの逸話にも等しいほどの集中が、子どもに見られることを、モンテッソーリは発見したのです。

この集中現象は、永遠に続くようにも見えますが、突然、子ども自身が自ら終わりにします。十分にやったという達成感を持ってやめるのです。そのとき、子どもの心は満ち足りて、穏やかで落ち着いた子どもになります。モンテッソーリ教育ではこれを「正常化」と呼んでいます。


▶子どもがしているのは、自分自身の人格を形成するという「偉大な仕事」


モンテッソーリ教育が集中力を育てるというのは、こうした一連の活動のサイクルを、子どもが繰り返すことが可能だからです。

何に集中し、何を繰り返すかは子どもによっても違います。毎日ハートバッグを作る子どももいれば、クッキーを焼いている子ども、野菜を切っている子ども、はさみで紙を切っている子どもなど、さまざまです。そうした子どもたちを、モンテッソーリ園の先生方やモンテッソーリ教育を学んだ親御さんは「やってる、やってる」と優しく見守っています。

でも普通なら「同じことばかりしないで、少しは違うことしたら?」とか「もう少し難しいことやってみたら?」と口出ししてしまうのではないでしょうか。

子どもがしているのは、自分自身の人格を形成するという「偉大な仕事」です。詩人が詩作するとき、芸術家が絵を描いているときと同じように、その姿を、愛と尊敬を持って見守ることができれば、きっと集中力が育ち、言われなくとも食事にも集中できるようになることでしょう。





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫 モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)がある。 






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