子育て相談
モンテッソーリで考えよう!

回答:田中昌子



第8回 子どもには競争が必要でしょうか?


Q:
主人と子育ての方針が合わずに困っています。男の子なので競争させて伸ばす、子どもには切磋琢磨や厳しい躾が必要だ、と主人は言います。自分は、そのような育ち方をしてきたといいます。

確かに、悔しいから頑張る、1番になりたい、という気持ちは、将来、競争社会に放りこまれ、打ち勝っていかなければならない男の子にとって、必要にも思えます。モンテッソーリ教育ではどのように考えていますか?



A:
夫婦間で意見が合わない、というご相談もよくあります。夫婦それぞれの成育歴は異なりますし、自分の「育ち」は心身に染みついていますから、子どもの育て方について、夫婦で意見が対立しがちなのです。

子どもは環境や、かかわり方を変えることによって、すぐに変わります。しかし、大人を説得して考えを変えようとするのは、難しいものです。モンテッソーリも「幼児が吸収したものは人格として永遠に定着するため、大人を変えようとしても無駄」といったことを述べているほどです。

ですからご主人の考え方を、すぐに変えるのは難しいでしょう。大人が変わるのは、自ら変わろうとしたときだけです。ご主人がモンテッソーリ教育を学ぶことで変わったというご報告も、また多くあります。


▶競争意識をあおることは、マイナスの感情や、反社会的な感情の原因になる


競争によって優劣をつけることで、悔しいから頑張る、みじめな想いをしたくないから努力する、という気持ちを植え付け、子どもを伸ばそうと考えている人も、確かにいるようです。

しかし、モンテッソーリは、それとは逆でした。「競争意識をあおることは、ねたみ、憎しみ、屈辱、といったマイナスの感情や、反社会的な感情の原因になり、できる子はうぬぼれて、他の子たちを支配するようになる」と考えていました。
 
幼児期から競争を奨励していると、勝った子が偉い、負けた子はダメな子、良い思いをするためには、相手を蹴落とさなければならない、という気持ちを植え付けてしまうことがあります。それが子どもに根付いてしまうと、思いやりや尊敬の気持ちが育ちにくくなるものです。

モンテッソーリは、優劣をつけることについて、著書の中で以下のように述べています。

「古い学校では、『あの子は1等賞を取った。あの子は0点だった。』と繰り返すのがつねです。それでは友情は育ちません。ところが、この年齢は、環境に応じて社会的な特性または反社会的な特性を築く時期なのです。この時期が出発点なのです。」
(『子どもの精神―吸収する精神』 マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所刊)

このように、幼児期が人格形成に大きな影響を与える時期であることを指摘しており、何が何でも1番でなければ、という風潮に対して、100年以上も前から警鐘を鳴らしています。

切磋琢磨というのは、個がしっかり確立しているからこそ、意味があるものです。固い石ならば、ぶつけ合っても壊れずに磨き合い、丸くしていくことができますが、柔らかい泥団子の状態でぶつけ合ったら、壊れてしまうことでしょう。

幼児期は一人一人が、自分自身を築き上げようとしている大切な時期であり、この世界は愛と信頼に満ち溢れた世界であることを、まず体感する時期です。切磋琢磨が大事だとしても、幼児期に求めるのは性急すぎます。


▶年長児たちが模範となり、年少児に接することで、クラス全体が愛情で結ばれた集団となる


モンテッソーリの幼稚園は縦割りクラスとなっています。年長児は年少児の保護者のように優しく接し、年少児は年長児を尊敬します。

私の娘が通っていたモンテッソーリ園では、クッキーを焼いたり、それを配ってくれたりする大きなお姉さんたちが、憧れの的でした。

年少の子が、自分もいつかあのようにやってみたいと思い、実際にできるようになったときに、今度はそれを上手に小さい子に教えます。年齢の近い子どもの方が、大人よりもずっと楽に教えることができるのです。

これが、モンテッソーリが縦割りクラスを奨励する理由です。モンテッソーリ園は一斉保育ではないのに、少ない教師でも対応が可能なのは、年長児たちが自然に提示をしてくれるからなのです。小さいけれど、模範となるべき年長児があちらにもこちらにもいます。

するとクラス全体が愛情で結ばれた集団となり、それぞれの性格も尊重しあえるようになります。これが、本当の意味での集団であり、平和に満ち溢れた社会です。これに対し、同じ年齢が集団を形成すると、競争原理が生まれやすくなり、優劣を争ったりしやすくなります。


縦割りの良さは家庭内でも ジャガイモつぶしを妹に提示する 4歳1か月

以前、こんなご相談もいただいたことがあります。運動や計算をさせて、できた、できない、を毎日チェックするような幼稚園に、お子さんを通わせていた方からです。

着替える時はタイマーで制限時間を計り、間に合わないと、おやつが食べられないそうで、自宅でもパニックを起こすことがあるとのことでした。ゆっくり丁寧に脱いだものを畳むという提示を見せても、それでは間に合わないと乱雑に畳むことしかできませんでした。また、怖がりで心配性、機嫌を損ねやすく不満も多いなど、対応に困っていました。

この方は、思い切って、お子さんをモンテッソーリ園へ転園させました。そして、自宅でもモンテッソーリの理念に添った生活をすることを心がけました。特に難しいことではありません。子どもの自由意志を尊重する、できる限り時間を区切らず、干渉せずにとことんさせてみる、優劣や評価する言葉を使わない、といった基本的なことです。

すると、園と家庭の環境が同時に変わったことも大きかったのでしょう。小学生になった今は、帰宅したらやることを自分で決め、言われなくても必ず実行する、というお子さんになりました。思いやりに満ちた言葉も聞かれるようになりました。

年齢の近い子どもの動きは見やすい お茶をパックに入れる4歳とじっと見る妹


▶ありのままの子どもを認めてあげる


質問者さんのように、ご主人が「1番」を価値あるものとみなしていると、このようにうまくはいかないかもしれません。大人の価値観は、子どもにそのまま反映されてしまうからです。

もし、子どもが1番にこだわったときには、家事など順番を競わなくてすむ手作業をさせてあげましょう。そして、丁寧にできたこと、最後まで頑張ってできたこと、片付けをきちんとしたことなど、結果よりもその経緯について認めてあげるといいでしょう。

親子で遊ぶゲームでも、大人が手加減して負けたり、逆に大人の実力で圧倒して見せたりする必要のない、運が左右するようなものを選ぶと、だんだんと勝ちにこだわらなくなります。

もちろん児童期以降、一定のルールのもとにゲームやスポーツ、あるいはコンテストなどで競うことについて否定するものではありません。競争に揉まれることで成長し、一流のアスリートになったり、コンクールで優勝したりする人もたくさんいることでしょう。

ただ、真の意味で一流の人は、勝ってもおごらず、感謝の言葉を述べ、負けても腐らず、自身の実力不足と受け止めるものです。つまり戦う相手は常に自分自身であり、相対的な1番を求めてはいないことに注目して下さい。


家事は競わなくていい 洗う人と拭く人を分担する 3歳1か月双子

仲良く姉妹で取り組むゆで卵の殻むき 4歳5か月と1歳9か月

幼児期には1番が取れていた子どもでも、年齢が上がるにつれて、だんだんそうではないことが増えてきます。思春期になると、1番になれない自分を肯定できなかったり、1番の子に対する嫉妬や恨みなどから問題を起こしたりすることもあります。そうならないためにも、ありのままの子どもを認めてあげましょう。

1番だから好きなのでしょうか。優勝したから愛しているのでしょうか。そうではありませんね。子どもはそこにいるだけで、かけがえのない、たった一人の大切な存在なのです。

1番でなくてもいい、あなたはあなたのままでとても素晴らしい、と良いところをたくさん見つけてあげられるのは、身近にいる親だからこそです。肯定的に子どもを認めてあげられれば、子どもは自分が大切な存在であり、同じように相手も大切な存在であることに、きっと気づけることでしょう。

思いやりの心が自然に育つ 4歳3か月





田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年より、日本全国及び海外から参加可能なIT勉強会「てんしのおうち」主宰。モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所(AHL)所長。著書に、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)、『マンガでやさしくわかるモンテッソーリ教育』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。  






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