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講談社の創作絵本
『トン・ウーとはち』
◆小風さち/作
◆小野かおる/絵
◆対象年齢:3歳頃から
創作民話/韓国のお話
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いたずら坊主のトン・ウーは、お寺に何百年も住みつく蜂の巣を棒でたたきました。怒った蜂は、トン・ウーに「巣をたたいたやつを知らないか?」とたずねます。トン・ウーはとぼけて、「化け物魚がやったんだろ」とか「そういえば、目もくらむくらいきれいな鳥が通っていったな」とか「腰が抜けるくらいでっかい龍が門をくぐっていった」なんて、ウソばかり。ところが、トン・ウーのついたウソの通りの化け物が現れて……?
お経をあげたり、座禅を組んだり、トン・ウーに犯人を教えてもらおうと色々な芸を見せる蜂と、トン・ウーとのかけあいが楽しい、現代の民話風絵本です。
「トン・ウーとはち」によせて 小風 さち
韓国を訪れるたび、あまりの近さゆえ、逆にびっくりする。からくり箱を使って、世界をひっくり返されたような気がする。衣食住はもとより、色彩、作法、言葉の響き。違いと類似に目を見張る。日本が島国ということもあるだろう。玉手箱をのぞくように、隅々まで見てみたくなる。DNAに手招きされるのを、じっと味わっていたくなる。
ある時、浮石寺(プソクサ)という山寺に泊まった。起きると、いい天気だ。どれ仏様のお顔を拝もうと外に出ると、男の子の泣き声がする。見事な泣きっぷりである。蜂に刺されたらしい。境内を掃いていたお坊様が、箒片手に駆けつける。男の子は泣く。お坊様は走る。袈裟がたなびく。お話が生まれる。
小風さち作「トン・ウーとはち」の絵を描く。 小野かおる
韓国の現代の話である。しかもお寺の小坊主の話。ありがたーい話かと思ったら、それが大ちがい。小坊主トン・ウーは、悪ガキなのである。フムフムわたしは悪ガキを描くのが好き、どうもかわいいお嬢ちゃんは苦手なのである。トン・ウーは瞬時にいたずらを思いつく。それも怪物ばかり。韓国の怪物? 調べました。終わりに、トン・ウーが蜂にさされてワンワン泣くところで、ホッとしたものです。
今日はトン・ウー君、お母さんのうしろについて、何を考えているのやら。
小風さち(こかぜ さち)
東京都生まれ。1977年から87年まで、イギリスのロンドン郊外に暮らした。
絵本の著書に『わにわにのおでかけ』などの「わにわに」シリーズ、『とべ! ちいさいプロペラき』『はちみついろのうま』『はしれ、きかんしゃちからあし』『トーマスのもくば』(以上、福音館書店)、絵本の訳書に『みっつのねがいごと』(岩波書店)、『ハンナのあたらしいふく』(福音館書店)など。長編ファンタジー『ゆびぬき小路の秘密』(福音館書店)で、1994年野間児童文芸新人賞受賞。
小野かおる(おの かおる)
東京都生まれ。東京藝術大学油絵科卒業。絵本の仕事に『オンロックがやってくる』『とんだトロップ』『はるかぜとぷう』『われたたまご』『ねずみのおよめさん』『カンジカおばあさんのおきゃくになったうさぎたち』『へんてこ へんてこ』『こぶたかげこぶた』『ねことおんどり』『ニューワと九とうの水牛』(以上、福音館書店)、『銀のうでわ』『お父さんが話してくれた宇宙の歴史』(ともに、岩波書店)、『宮沢賢治 狼森と笊森、盗森』(古今社)、『のんのんのんたちとちびうさぎ』(小峰書店)、『おさわがせ さいのライノー』(偕成社)、『イグアノドンとちいさなともだち』(小学館)など多数ある。サンケイ児童出版文化賞など、受賞多数。東京造形大学名誉教授。新制作協会会員。
小風さんに初めてお目にかかったとき、「『トン・ウーとはち』をどうしても小野先生に描いていただきたい!」という強いご希望がありました。お願いしたところ、快くお引き受けいただき、わたしたちの念願がかなって、絵本ができました。
舞台となった韓国のお寺については、小野先生が綿密に建築の資料を調べてくださり、また、小風さんが韓国へ行かれた際、「念仏おどり」の資料や、お寺や沼の資料などを取材して集めてきてくださいました。龍や鳳凰についても、小野先生が資料を集め、素晴らしい化け物たちを描いてくださいました。
帯には、神沢利子先生からご紹介の言葉をいただきました。これがまた、ひとつの文学のようになっています。
装丁と本文のデザイン、校正は、辻村益朗先生にお願いしました。
世の中に、教訓をたれたり、しつけを教えたり、ためになることを打ち出す絵本が多い中、こんなにただただお話を楽しみ、絵を楽しみ、だからこそ何回も見返したくなるような絵本が作れたことは、担当として至上の喜びです。(K)
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