榊原せんせい、新しい学びのカタチ”プレイフルラーニング”ってなんですか?

【 遊ぶことで、天才になれるって本当?  】

小学一年生くらいの子供に、「お勉強好き?」って質問をすると、好きっていう子がほとんどいない。「どっちかっていうと嫌い。」っていう子が多いです。これは、勉強に対してネガティブな気持ちを持っているということであって、本当にかわいそうなことです。


――私もそうでした。


以前、STEM教育(Science, Technology, Engineering and Mathematicsの教育分野の総称)を中国の子供たちにどう身につけさせるか、という講演会があり、中国STEM教育会会長のお話を聞きました。その際に、「中国は、なぜこれだけ多くの子供がいて、教育にも力を入れているのに、ノーベル賞受賞者の数が少ないのだろう。それに対して、日本はなぜ多いのか。」と話していたんです。

受験戦争が激しい韓国も、同様のことを言っていました。PISA(国際的な学習到達度テスト)ではダントツな成績を修めている上海でも、そういった賞を受賞している人は少ないんです。


――「なぜ日本人はノーベル賞を受賞し、中国人は受賞できないのか」と中国で話題になっている。ということがニュースにもなりましたね。


はい。それに対しては、二つの見解がありました。一つ目は、「日本は70年から80年代に経済や社会が繁栄し、科学研究に膨大な資金が投じられ、数十年かけて積み重ねられた成果が今になってでているから。」というもの。そして、もう一つが、「子供の好奇心を大切にする、日本の教育が影響しているのではないか。」というものでした。

やはり重要だったのは、好奇心を育てる、「遊び」にあったわけです。

話を日本の教育に戻しますが、日本の幼稚園の先生は、「遊び」を中心に、徹底してやっています。“砂場で遊びましょう。’’‘‘泥団子作りましょう。’’‘‘積み木をしましょう。’’

そのことを実感したのは、私の担当している学生が、幼稚園の教育実習をしていた時です。指導教官として付き添って行った時、いてもつまらないので、私が子供を集めて、一緒に遊んでいたんですけれど。


――(笑)


そのあと、園長先生から「先生は、幼稚園の先生に向きません。あんな具合に、先導してやってはダメです。子供が主体的に遊べるようにしてください。」と言われたんです。確かに、自分がやりたいことを子供に押し付けてしまっていたと反省しました。このように、日本の幼稚園では、「遊び」ということを大切にしているんです。


――自分が幼稚園児の時は、「遊び」を徹底されているという意識すらなかったです。


それでいいんですよ。日本の幼稚園が「遊び」を徹底することで、探究心や好奇心が、幼少期の間に知らず知らず育てられていたんですから。だからこそ、新しいものを研究し、発明できる人たちが日本から多く輩出されてきたといっても良いのではないでしょうか。


――でしたら、小学校も、もうちょっとやることを減らせたらいいですね。


その通りです。以前、フィンランドの算数教育の専門家の教授と食事をしていたら、「今度、新しくフィンランドの小学校の数学のカリキュラムを大改訂するんです。」と教えてくれたんです。なんと、一年分遅らせるという衝撃的な改訂でした。

一年生で学ぶことは、数字の読み方、書き方だけ。


――えー!


本来のカリキュラムだと、脳科学的なデータから、‘‘数や立体という概念を理解する子供の脳の力’’が追いつく前に、早く詰め込みすぎてしまっていたそうです。
そういった、‘‘数や立体という概念を理解する子供の脳の力’’は、子供の体験の中で身についていくこと。だからこそ、一年遅らせたんです。


――大胆ですね。

しかし、そのままのカリキュラムだと、本人の中で自然に育つ、‘‘数や立体という概念を理解する子供の脳の力’’が追いつかずに、算数に対して不消化で、十分理解できないままになってしまう。結果的に、算数嫌いを生み出してしまうんです。たくさん詰め込んでやることは、逆効果なんですよ。

十分理解できないまま、中学・高校へ進んでも、表面的にやってきた分覚えられないんです。「なぜ水は凍るのか?」「0度以下になるから。」「3分の1を5分の1で割るってどういうこと?」「逆さにしてかければいい。」それじゃあダメですよね。一個一個の持つ意味を考えないと、十分な理解とはいえません。


――そうですね。


決められた教育のカリキュラム通りに学んでも、学んだことを知っている物知りになるだけです。カリキュラムを学んだところで、その先に新しいものはないですから。

身になる「学習」とは、自律的に自分自身が学ぶことを決めていくことから生まれます。だからこそ、子供から自然に生まれる、「なんでだろう?なんだろう?」という気持ちに合わせて教育していくべきです。

「遊び」の中にある、自発的。楽しい。方向性がない。探究的であること。この要素こそが、新しいものへ挑戦し、新しいものを創り出すことへの原動力になっていることは間違いないのです。


( 続きます。)

次回インタビューは、10月22日に掲載いたします。



榊原洋一(さかきはら よういち)
小児科医師・お茶の水女子大学名誉教授。東京大学医学部卒。発達障害研究の第一人者で、いまも、小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書多数。







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