【 コロナ禍だから、家庭でプレイフルラーニング! 】
「遊び」の中にある要素こそ、新しいものへ挑戦し、新しいものを創り出すことへの原動力になっていることは間違いないですが、(第2回インタビュー参照)実際に「遊び」を学校に取り入れようとしても、カリキュラムがしっかり決まっているので、「遊び」を徹底しましょう!と、いきなり改訂することは難しいのが現状です。
――さらにこのコロナ禍で、学校側はより一層「勉強」の遅れを取り戻そうと、カリキュラムを詰め込んでしまうところが多そうですね。
そういった話はよく聞きます。つい最近、小学1年生になったばかりの子も、同じようなことで困っていました。
その子は、もともと遊びが好きで、小学校に入るまで、ほとんど字も読めない状態でした。しかし、入学してすぐにコロナで休校になり、算数の足し算などの宿題をいっぱいだされたそうなんです。もちろん学校で教わったわけでもなく、その子は読み方も分からない状態ですから、とても困ったそうです。
――それはとても大変ですね。
学校の先生が悪いわけではないけれど、‘‘決められた期間内に、決められたカリキュラムにそって勉強を教えなくてはいけない’’ということを守るのに必死な人が多い気がします。確かにカリキュラムは、よく考えられたものだと思います。しかし、決められた教え方に沿って、全部詰め込んで教えることが良いことなのでしょうか。先生にとってのノルマは達成されるかもしれませんが、それが生徒の身になってなければ、全く意味がありませんよね。
ただ、カリキュラムに反して、自由に色々教えてあげようと試みる先生がいても、先生同士の人間関係の中で、そういったことは難しいと思います。生徒の親から「どうしてうちの子には教えてくれないんだ。」とクレームが入る場合もありますから、決められたカリキュラムに逆らうということは、非常に困難でしょう。
――複雑な気持ちです。
とある国立大の付属の小学校で、カリキュラムに関して自由度の高いところがありました。実験的な学習が可能とされている学校で、私の娘もそういったところに中学から入学しました。そこではなんと、最初の一学期、英語は一切教科書なし。
――えー!
先生と挨拶をしたり、フレーズを覚えるだけでした。私も、こんなことを言っていながら、「(英語の勉強)これで良いのかな。」と当時は不安になっていましたが。(笑)
――(笑)
結果的に、娘は英語を話すことがとても上手になりました。
人間が赤ちゃんの頃に言葉を覚えるのは、聴くことから始まりますから、よく考えてみれば当たり前のことです。言葉を覚える原則は音なんです。そのことを、先生は実践されたのだと思います。
ところが一般的には、アルファベットを書いて、‘‘d・ o・ g’’と書いて‘‘ドッグ’’と読ませる。こういった学習方法が普通ですね。これは、言語学習の自然の生き方と異なっているため、身につきづらいことは当たり前なんですよ。
――なるほどとしか言いようがありません。
しかし、このコロナ禍で、学校だけでなく、家庭で勉強を教えなくてはいけない機会が以前にくらべて増えたと思います。だからこそ、家庭でプレイフルラーニングの出番ではないでしょうか。
――どのようにすれば良いでしょうか。
プレイフルラーニングがやりたかったら、子供と一緒に遊ぶ。これに尽きます。親と子供が楽しめる遊びをすることが、プレイフルラーニングだと思います。親が面白くない顔をしていたら、子供は楽しくないですからね。
まずは、好きなことをさせてください。何かを経験させてあげることも良いと思います。博物館でも動物園でも水族館でも。レジャー、考古学、歴史でもいいです。川に行ってザリガニを採ったり、昆虫を捕まえに行ったり、体を動かすことでもプレイフルラーニングですよ。もちろん、コンピューターゲームでもそうです。ゲームを嫌う保護者の方が多いですけれど、ゲームは大人が作ってますからね。
――シンプルですね。
シンプルなようで、ほったらかして適当に遊ばせればいい。ということではありません。
脳科学の研究では、子供の成長は、子供の情緒によって大きく左右される可能性があると言われているんです。楽しい。喜び。そういったポジティブな感情を多く感じる環境にあるほど、発達が早く、学習内容を身につけやすい。そのような傾向があると言われています。だからこそ、大人が勝手に「遊ぶ」環境を整えても、子供の感情は無視されているので、有効とは言えないんです。
――ちょっと難しいですね。
難しく聞こえたかもしれませんが、私は、これまで通り親が子供の様子を見ることが一番重要だと思っています。日常的に子供と接する中で、子供がどのような遊びに喜んで参加しているのか、どんな学びを得ているのか、把握することが大事だと思います。そして、子供が楽しめる「遊び」の環境を、親が整えながら、あくまでも子供に主体的に自由に遊ばせてあげる。そういったことを意識すれば、家庭でのプレイフルラーニングは可能です。
学校の宿題を手伝うことでも、学校の勉強を教えることではありません。そんなことに時間を使うんだったら、ほったらかしてプレイ!遊んじゃいましょう!学びに向かう力をつけること、それは言われたことをやることではないですから。
――小さい頃に戻って、もっと遊びたくなってきました。遊ぶことで、天才になれるなんて、お得じゃないですか。
そうです。だからこそ、この「あそんで、天才!」シリーズは、プレイフルラーニングにもってこいです。子供に自由に、楽しく、考えさせるための工夫を、一番に考えて作りましたから、素晴らしい本に仕上がったと思います。
今までありそうで、なかった本になったのではないでしょうか。あそんで、天才になりましょう!
(インタビューはこれでおしまいです。榊原先生、ありがとうございました!)
榊原洋一(さかきはら よういち)
小児科医師・お茶の水女子大学名誉教授。東京大学医学部卒。発達障害研究の第一人者で、いまも、小児科医として発達障害児の治療にかかわる。著書多数。