第35回講談社絵本新人賞受賞
加藤晶子の制作日記
第4回「師走の強化トレーニング?! 講談社にて」

タイトルの通り、12月はまさに強化月間で、毎週のようにしつこく講談社に押し掛け(?)ていました。しかも1回の打ち合わせが、休みなく5~6時間にも及びました!

さて、いよいよ「束見本(つかみほん)」上での作業に入ります。「束見本」というのは、実際に製本される絵本と同じ大きさの見本で、言ってみれば白い絵本です。






3冊にわたって、絵コンテを描きこんだ束見本

この束見本に、ページめくりの感触を考えながら、実寸の絵コンテを描きこんでいきます。
これまで全体が一度に見られるように描いていた、小さな絵コンテは卒業です。

さて、すっきりと整理された絵コンテを「束見本」に描いてみると……。
一度は納得して絵柄を変更していた箇所のうち、いくつかどうしても気になるところが出てきました。
なかでも、トップページのインパクトが薄れてしまったのではないかという心配と、お話を整理する中で思いきって削った1枚の絵にやはり未練が……。
「今さら、こんなことを言っては今までの作業が……」と思いつつ、この想いのまま進めることもできず、担当編集者(N)さんに思い切って相談。
(N)さんは、むしろ積極的に解決策をいっしょに探してくださいました。
本当にありがたいことです。



とはいえ、今回の絵本は32ページと決まっています。これは紙取り・製本の問題なのですが、32ページの中でお話を展開させていかなければなりません。
何かを増やせば、何かを減らさなければならないのです。
そして、出てきた解決策が、数ページにわたる場面を、おもいきって1枚にまとめてはというものでした。

じつは、応募時の絵には、見開きではなく、半ページずつで展開している場面が数枚ありました。
しかし、描き直すにあたって、できるだけ見開きで展開していくことを鉄則にしていました。
理由のひとつに、小さな人たちは、例えば同じ主人公が左ページと右ページにそれぞれ描かれていると、別々の人物ととらえてしまうおそれがあるからです。

必ずしもではありませんが、小さい人たちがそういう見方をするかもしれないということを、描く側は認識しておく必要があります。
私も認識はしていたものの、応募時にはどうしても削れないと思いこんで、半ページずつの絵を描いている箇所がいくつかありました。
これをうまく整理できれば、入れたい場面を復活させることもできそうです。

ところで、今回1枚にまとめたのは、なんと3ページにわたって描かれていた「てがみぼうや」の3つの行動の場面!
3つのことを1枚にまとめるなんて無理があるのでは……と思いつつ……、ここで役立ったのが、「拡大縮小コピー貼付け技法!」
といっても、そんなすごいことではないのですが……。

ここは構図が命!

一度描いた絵コンテの一部分を、少し大きく、小さく、もうちょっと右、上、といった具合に微調整しながら、拡大縮小コピーをくり返します。
切り取ったいろいろなサイズの部分コピーを、(N)さんといっしょに動かしながら、絵が散漫にならないよう、ああでもない、こうでもないと検討。

「拡大縮小コピー貼付け技法!」これを続けると↓

大分整理されてきました。
人形遊びみたいで楽しいです。

読者の目線の流れも計算しながら、どうにか1ページに収まりました。
いちばん大変だったシーンかもしれませんが、改めて制作したなかでもいちばん楽しいシーンだったかもしれません。
ただし、絵本のなかには、ある手段を使って、半ページに2枚の場面が描かれている見開きがひとつ存在します。
ちょっとした裏技(?)を使っています。
ぜひ、絵本でごらんになってみてください。

12月は、こんな感じで本当に駆け足で過ぎていきました。
もちろん、打ち合わせ後にゆっくり食事しながらなんてことはなく、講談社社内でサンドイッチをぱくついたり、講談社の社食で同じ釜の飯(?)をということでパパッと済ましたりしていたのでした。
いそがしいなかでも、いつも私に食事を取らせようとしてくださる(N)さんなのです。
母のようですね(笑)。

さて、いよいよ、つぎは本描き(本番の紙に色を塗っていく作業)です!

■おまけのはなし
話は受賞式後に戻りますが、今回の審査員のひとりである「中川ひろたかさん」は、私の住んでいるところから比較的、近くにお住まいです。
受賞式後、お礼もかねて、恐れ多くも「私の仕事先にもぜひ、遊びに来てください!」とお声がけしたところ、本当に来てくださいました!
(私の仕事先は、湘南唯一のお酒の蔵元で、私が働いているギャラリーショップも併設している、なかなかおもしろいところなのです。)
絵本のことはもちろん、これからのこととか、楽しいお話もたくさんしてくださいました。私が幼稚園の頃に好きで歌っていた歌は、じつは外国の遊び歌で、中川さんが訳していたものだったことも判明。その方とお話できているのですから、感激ですよね。
ちなみに、「パンやに5つのメロンパン~♪……」って歌です。

中川さんが、受賞式の際、「60歳近い私と5歳の子が絵本を通じて同じ物で楽しめる。一気に距離が縮まる」というようなことをおっしゃっていて、そうだ! 絵本ってすごい! と改めて思ったのでした。
先日、中川さんは、還暦になられたそうですよ。めでたい!

★次回は「ことばのちから」をお送りします。

加藤晶子(かとう あきこ)
東洋英和女学院大学卒業。死生学を学ぶ。
雑貨店の立ち上げ、ホテル再生事業、人事等を経て、現在ギャラリー&ショップに勤務。
セツ・モードセミナー卒業。パレットクラブ絵本コース卒業。絵本ワークショップ「あとさき塾」「チャブックス」に参加。2005年より個展等にて作品を発表。第7回逗子市手作り絵本コンクールにて「優秀賞」受賞。
http://www.atelier-mekuru.com/

講談社の創作絵本
『てがみぼうやのゆくところ』 加藤晶子/作

第35回講談社絵本新人賞受賞作!
一通の手紙が、おばあちゃんの家に届けられるまでの、めくるめく物語。手紙が到着するまでには、こんな大冒険がくりひろげられているのです!

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