わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
高畠那生さんの場合・後編


『いぬの ムーバウ いいね いいね』
『いぬの ムーバウ いいね いいね』
高畠那生
1978年、岐阜県生まれ。東京造形大学絵画科卒業。第4回Pinpoint Picture Books Competition入選。『むかった さきは…』で、第25回講談社新人賞佳作受賞。(受賞作は、『いぬのムーバウ いいね いいね』と改題されて刊行。)主な作品に、『ぼく・わたし』『チーター大セール』(絵本館)、『おまかせツアー』(理論社)、『こんやもカーニバル』(斉藤洋・作/講談社)などがある。

高畠那生さん
——次は、絵本制作についておうかがいしたいと思います。絵本を作るとき、描きたい絵をポンと決めてから作っていくとおっしゃっていましたが、受賞作の『いぬのムーバウ』、これはどこが最初にうかんできたんですか?

 東京タワーのあの骨組みが描きたかったんです。


——描くときは、資料をすごく探したりします?

 しますします。作がある場合は、まったくわからないものが出てきたり、イメージは浮かぶけど描こうとするとわからないものってけっこうありますよね。あとは、一度も描いたことがないものは、ネットで調べまくって写真をどんどん落としていったりしますね。


——高畠さんのお話って、現実に即したものというよりは、そこから飛び出そうとする話が多いと思うんですね。ナンセンスというか、人が想像することの枠から飛び出て行くような。そこで、現実的なお話でなければそんなリアルに描かなくてもいいんじゃないかなって思ってしまう人もいると思うんですけど、やっぱりそこは、ディテールはきちんとおさえて描かれるということですよね。

 そう。友人の絵でカバがあんぐりあけた口のなかの歯がピアノの鍵盤だったというのがあって、黒鍵と白鍵の関係性がむちゃくちゃだったんですよ。それがすっごい気になって、これは直さんでいいのか、と。描いた本人はもう全然関係ないらしいんです。雰囲気がピアノならいいって。でも、僕の絵本の場合、話が飛んでいるぶん、そこはぐちゃぐちゃにならないよう、おさえておきたい。



——きちんと描いておかないと、変なものを描いたときに、ずれてる感じが目立たない?

 ああ、そうでしょうね。あとは、ネットニュースの写真ってありますよね。そういうのはものすごくチェックします。こぼれ話とか、世界の珍事件とか、ああいうものをチェックして、ばかなことを一生懸命やってる人たちの写真、たとえば上空でテニスやってる人たちの写真とか、そういうストックは作ってます。迷った時はそういうのを見て、気を楽にしています。

講談社フェーマススクールズ

——話がうかぶ時ってどういう時なんですか?

 えー、〆切があるとき(笑)。どうなんでしょうね、アイデアが浮かばないときは浮かびませんから……。ムーバウのときは、最初に東京タワーが描きたくて、東京タワーを描くなら、でっかい船も描きたいなと思ったんですよ。でっかい船のほかに、真っ暗なところも描きたいと思ったり、そういう本当に描きたいものをリストアップしてそれをなんとかつなげていく作業をするんですけど、これをつなげるにはどうしたらいいかってことを考えたとき、引っ越しのお話にしたらうまくまとまるんじゃないかと思ったんです。

——東京タワーを描きたいとか、これを描きたいなとか、最初にうかぶ絵というのは自然にうかぶものなんですか?

 自然にっていうか、このときって東京タワーにはじめてのぼったあとだったんです。東京に来てから何年か経ってるけど東京タワーのまわりって行ったことがなかったので。で、行ったらそればかりになっちゃったんでしょうね(笑)。

——(笑)。さきほど、お話がうかぶときって〆切がある時っておっしゃってましたけど、これまで、わきあがってくるものを描きとめておいて、出来上がった話をこんなのがあるんですけどって編集者に見せたことはないんですか?

 今のところ、ないと思います。ある程度メモ書きで残してるものっていうのはいくつかありますけど、それが机のまわりにべたべた貼ってあるだけで、意味のわからないものが多いですね。宇宙人の話とか(笑)

——新しい作品お願いしたいんですって話があったときに、そういうストックの中から使うっていうことはあまりない?

 そうですね。貼ってはあっても、書かれてあるメモ以上のイメージは、そのときは浮かびませんから。今は宇宙人じゃないと。あたためてあるという感じでもなくて、あきらかに放ってあるんで、あるものから出すのと、一から考えるのと作業的には同じなんですよね。さらに気分じゃないとすると、無理矢理使わなくてもいいと。描きたいアイテムっていうのはあるんですけど、それは別に話のメインになるものじゃないんで。

——「こんな主人公を描きたい」より「こんな場面を描きたい」ということが多い?

 そっちのほうが多いです、たぶん。

——たとえば?

 ばかみたいにでっかいものとか、なんで作っちゃったんだろうってものとか。それに、不釣り合いなものを合わせるのが、どうも好きみたいです。たとえば「チーター」と「大セール」って言葉もそうなんですけど、普段だったら絶対くっつかないようなものを、絵でくっつけて、いっしょに並べておきたい。意味合いが、ありそうでないやつ。

——見たときに、「ん?」って思うものなんですかね、描きたいとか、おもしろいと思うものが。するっと見て終わりじゃなくて、二度見するような感じというか、なんでこれとこれなんだろうな、っていう感覚のほうが、ちょっとおもしろいと思うという。

 そうかもしれないですね。でもそれだけで作っちゃうと、趣味の本になっちゃうんですけど。

——バランスが難しいですよね。では、文と絵をかいていくときに心がけていることはありますか?

 絵で描いてあることは文字で書かない。直接的に説明しない、絵とテキストが直結でないもののほうが、いい絵が描けるような感じが、勝手にします。あとは、ストーリーの中の1枚の絵ってことじゃなくて、それだけで完結できるような感じも持たせたいんです。それだけで開いておいておけるような。

——なるほど。編集としては、つい「絵本の絵は、1枚で完結するイラストとは違って、次へ次へとめくりたくなるようなものに」とアドバイスしがちなんですけども。

 うーん、それはそうなのかもしれないですけど。(自分が作絵の場合は)やっぱり絵寄りの考えなのかもしれないですね。僕が絵本を見るとき、1見開きで3行くらいのテキストを読むのが限界なんです。テキストが多いと、絵も文字もたくさん見なくちゃとあたふたしてしまうんです。

——文章が増えると、そこを読んでる時間をかけてるから絵もみてるような気になっちゃうってことはありますよね。文章を読むと、ストーリーはなんとなく頭に入ってしまうし。

 そうなると、すごくもったいないなって思うんですね。文がいっぱいあると、目が絵のほうに十分にいかないこともあるので。そこをひきとめるために「絵の中に二度見してしまうもの」だとか、ちょこちょことした要素をいれる意味はあると思います。


——それでは最後に。受賞して、2作目3作目と出していくことって大変だと思うんですけど、コンスタントに本を出していくのに必要なことはなんだと思われますか?

 自分で積極的になにかをやってるってことはないんですけど。……出したものは絶対誰かが見るわけだから、そこが最大の公に出る場、個人がどこかに持っていくよりも大きな場なわけだから、次につなげるのが今の作品なんだと思ってます。


——新作は常に次へのプレゼンだと思えみたいな(笑)。

 そうそう(笑)。だからドキドキしますよね、前よりよくなくちゃいけないとか。全部同じような話ばっかりだと、焼き直しじゃない?ってことになりかねないので。だから、そうならないようにちょっとずつ変化をつけてみたりもします。といっても、絵を変えるわけではなくて、制作過程とか考え方ですけど。たとえば(いつも絵から話を作っていくので)テキストから作ってみたり。最終的に出てくる感じはいっしょなのかもしれないですけどね。


——とにかくやっぱり人の目に触れることを意識して描いてるってことですよね。読者だけじゃなくて、それが次の仕事につながるとか。今後やってみたいこととか、考えてらっしゃることってありますか?


 いろんな媒体でやってみたいなっていうのはありますね。今と同じ体裁のいわゆる「絵本」だけやってくと狭いところにいっちゃいそうでこわいっていうか。絵本でももっと違った形のものとか。方向性はまだわからないですけど、なにかしら変化はつけたいですね。そのほうが、より許せる範囲というか、なにかがやわらかくなる気がします。


——絵本はもちろんですが、これからもどんどん変化していく高畠さんの作品を、いろいろな形で目にするのが楽しみです。今日はたくさんお話しいただいて、ありがとうございました。



 (インタビュー場所:講談社 聞き手:ス)
 
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