わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
笹尾としかずさんの場合・後編

第18回講談社絵本新人賞受賞者・笹尾としかずさんの場合(後編)
笹尾としかず
1954年9月1日生まれ。午年、乙女座、A型。
神奈川県平塚市出身。多摩美術大学立体デザイン科卒業。
CBSソニー入社、10年で退社。
1989年からフリーで、イラストレーションを業とする。
1990年スイングジャーナル誌ジャズ評論優秀賞
1990年FNSオープニング・タイトル優秀賞(KTS/TV)
1996年『ハワイの3にんぐみ』で、第18回講談社絵本新人賞受賞。
1997年『ハワイの3にんぐみ』を講談社から出版。
『ハワイの3にんぐみ』
『ハワイの3にんぐみ』

——さて、いよいよ新人賞受賞作の出版ですね。デビュー作の場合、全ページそのままで絵本になる、ということはあまりなくて、たいてい何見開きかは、直していただくことになります。

 授賞式後のパーティーで、選考委員が耳打ちするんですよ。
「編集に、なんか言われても変えちゃだめよ」って(笑)。

——んー、どなたでしょうね、そういうことをおっしゃるのは(笑)。

 もちろん、やりとりはありました。でもけっきょくは直さずにそのまま出してもらいました。メッセージ性と表現はつよく結びついているから、変えられないという部分が多かったですね。

——次に出版されたのが、2002年の『大輝(だいき)くんのくじら』ですね。

 これは編集からの依頼です。メイク・ア・ウィッシュ※1から提案された企画で、モデルは実在の男の子でした。出てくる施設も、舞浜のシェラトン・ホテル※2や東京ディズニーランド。実在するものを素材に創作絵本をつくる、ということに、最初は若干抵抗がありました。でも、実際に制作に入ると、それは気にならなくなりました。
※1 英語で「ねがいごとをする」と言う意味のボランティア団体。3歳から18歳未満の難病と闘っている子どもたちの夢をかなえ、生きる力や病気と闘う勇気を持ってもらいたいという趣旨で活動している。
※2 シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル

大輝(だいき)くんのくじら』
2002年刊 文/清水久美子 
日本図書館協会選定図書


沖縄の小学生、大輝くんは、小児癌と闘っています。以前メイク・ア・ウィッシュで東京ディズニーランドに行ったことがあり、そのとき泊まったシェラトン・ホテルで、「ぼくはホテルの社長になって、病気の子どもをたくさん招待したい」と思いました。そして、大輝くんはホテルの「1日社長」に。「ホテルが飛行機からもわかるように、屋上にくじらの絵を描いて」という大輝くんの願いを、従業員が一丸となって実現します。大輝くんは、夢の中で、くじらに乗って大海原をジャンプしていくのでした。

講談社フェーマススクールズ

——どのような気持ちで取り組まれた作品でしたか?

 まず、この子を哀れむような表現だけはしないぞって、いうことは考えました。
できるだけ元気な子に描きたい、と。くじらにのって虹のなかをジャンプするっていうシーンは、原作にはなかったんです。大輝くんのお母さんが、喜んでくれたらいいなって思って、このシーンを描き加えました。元気な姿を絵本の中にとどめてあげたいと思ったんです。

——作品として完結していますね。

『ハワイ〜』の勢いとは別に、丁寧に丁寧に書きました。筆のタッチがなくなると、ぼくの絵じゃなくなっちゃうから、アナログな表現は残すけど、粗くならないように気をつけて描いた作品です。時間もかなりかかりました。

——本が出たときのご感想は?

「あ、いい仕事したな」って思いましたよ。大輝くんは、その後亡くなってしまうんだけれども、残された人たちが大輝君を思い出してくれるよすがになったならいいと。それに、この絵本を読んでくれる人たちに、彼の“生きる力”が伝わるといいなと思いました。

——これから新人賞をめざす人、絵本作家になりたい人たちへ、アドバイスをお願いします。

 特にないんだよね、それが(笑)。パーソナルなことだからね、絵本の制作って。でも、おすすめコメントなら、「次代をになう子どもたちに夢を持たせられる仕事、かかわっていてすてきな時間が得られます」というところかな。事実そうだと思うし。

——ジャズCDジャケットのように大人の仕事もされているなかで、絵本の領域にかかわってこられた時間の豊かさ、というか、こういう仕事って楽しいなと思われるのはどういう部分ですか?

 子ども目線でいられる楽しさ。なあんだ、人生もう一回やり直せるんじゃないか、と思った。もう一回楽しめるぞって。ふっと子どもに戻れるなんてすてきなことじゃないですか。

——そういう楽しみを存分に味わいながら制作に没頭する、ということが、結果的にいい作品につながるということでしょうか?

 『ハワイの3にんぐみ』の設定を考えたとき、なるだけ子どもを荒唐無稽な、異次元の世界へ引っぱりこみたい、もっと世界は広いぞと思わせたい、と思ったことがハワイのほうへいったきっかけ。とにかく、こどもが持っている世界を広げてあげたいと思ったのね。
 でも、これは「ぼく」だから。もっと身近な、たとえば庭の土の中のトンネルに、ありの世界があって、みたいな設定だって、それはその人の世界観なわけでしょう。
だから、描きたいことをしっかり持って、それぞれがビジョンを明確にもって制作にかかったら、というのが、アドバイスといえばアドバイスかな。

——ひとつのものを広くとらえて、違う見方、聞き方を気づかせてあげる、そして、読者といっしょに楽しんでしまう、ということですね。

(新人賞応募者の)みなさんが、そういう気持ちで制作に臨めば、もっと出版に近づくと思いますよ。

——有効なアドバイスを、ありがとうございました。


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