——どのような気持ちで取り組まれた作品でしたか?
まず、この子を哀れむような表現だけはしないぞって、いうことは考えました。
できるだけ元気な子に描きたい、と。くじらにのって虹のなかをジャンプするっていうシーンは、原作にはなかったんです。大輝くんのお母さんが、喜んでくれたらいいなって思って、このシーンを描き加えました。元気な姿を絵本の中にとどめてあげたいと思ったんです。
——作品として完結していますね。
『ハワイ〜』の勢いとは別に、丁寧に丁寧に書きました。筆のタッチがなくなると、ぼくの絵じゃなくなっちゃうから、アナログな表現は残すけど、粗くならないように気をつけて描いた作品です。時間もかなりかかりました。
——本が出たときのご感想は?
「あ、いい仕事したな」って思いましたよ。大輝くんは、その後亡くなってしまうんだけれども、残された人たちが大輝君を思い出してくれるよすがになったならいいと。それに、この絵本を読んでくれる人たちに、彼の“生きる力”が伝わるといいなと思いました。
——これから新人賞をめざす人、絵本作家になりたい人たちへ、アドバイスをお願いします。
特にないんだよね、それが(笑)。パーソナルなことだからね、絵本の制作って。でも、おすすめコメントなら、「次代をになう子どもたちに夢を持たせられる仕事、かかわっていてすてきな時間が得られます」というところかな。事実そうだと思うし。
——ジャズCDジャケットのように大人の仕事もされているなかで、絵本の領域にかかわってこられた時間の豊かさ、というか、こういう仕事って楽しいなと思われるのはどういう部分ですか?
子ども目線でいられる楽しさ。なあんだ、人生もう一回やり直せるんじゃないか、と思った。もう一回楽しめるぞって。ふっと子どもに戻れるなんてすてきなことじゃないですか。
——そういう楽しみを存分に味わいながら制作に没頭する、ということが、結果的にいい作品につながるということでしょうか?
『ハワイの3にんぐみ』の設定を考えたとき、なるだけ子どもを荒唐無稽な、異次元の世界へ引っぱりこみたい、もっと世界は広いぞと思わせたい、と思ったことがハワイのほうへいったきっかけ。とにかく、こどもが持っている世界を広げてあげたいと思ったのね。
でも、これは「ぼく」だから。もっと身近な、たとえば庭の土の中のトンネルに、ありの世界があって、みたいな設定だって、それはその人の世界観なわけでしょう。
だから、描きたいことをしっかり持って、それぞれがビジョンを明確にもって制作にかかったら、というのが、アドバイスといえばアドバイスかな。
——ひとつのものを広くとらえて、違う見方、聞き方を気づかせてあげる、そして、読者といっしょに楽しんでしまう、ということですね。
(新人賞応募者の)みなさんが、そういう気持ちで制作に臨めば、もっと出版に近づくと思いますよ。
——有効なアドバイスを、ありがとうございました。
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