わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
コマヤスカンさんの場合・前編

第30回講談社絵本新人賞受賞者 コマヤスカンさんの場合(前編)
コマヤスカン
10歳の時に「スター・ウォーズ」に感化され、SFイラストを書きはじめる。愛知大学文学部で社会学を専攻するかたわら、美術部に所属し、洋画・ペン画の制作に没頭する。この頃、ガブリエル・バンサン作『アンジュール』(ブックローン出版刊)に出会い、ショックを受ける。その後、ライナー・チムニク作『クレーン男』(パロル舎刊)の影響を受け、童話作家を目指すも挫折。34歳にして、絵本作家になることを決意し、「子どもの本の専門店 メリーゴーランド」絵本塾に入塾、絵本作りを学ぶ。第29回講談社絵本新人賞佳作に入賞。そして、本作(応募時のタイトルは『てるてる王子 南へ』)で第30回講談社絵本新人賞を受賞し、悲願のデビューを果たす。

——おつかれさまでした。そして、おめでとうございます。本ができた今の気持ちは?

ほっとしたという気持ちと、嬉しくてたまらないという両方ですね。

—— 「ほっとした」というと?

ようやく夢がかなって、ほっとしたって言うんですかね。2人の娘たちにも「お父さんは絵本作家になるよ」って7年ぐらいまえから言ってましたから。やっと約束がまもれて良かったなと。

—— 娘さんたちは、どんな反応でしたか?

「よかったね」って。荷物が届いたとき、娘たちと3人だったんです。ぼくが開封して、「はい」って1冊ずつ渡したんです。作っているときから、何度も見てもらっていたんですけど、本になると、すこし距離をもって見られるところがあるので、細かいところに気がついたとも言ってましたね。

—— どんなところですか?

「あっ! こいつ、ここでなまけている。」とか(笑)。細々と人とか街とか描いているんですけど、ちょっとした遊びをいろいろと入れているんですよ。ネタばらしになるので、ここでははっきりとは言えないんですけど……気がついた人だけ、気がつけばいいなと。

—— そうですね、自分で見つけた方が面白いですもんね。ぼくも色校正をしているとき、すごく小さいなところに自分の名前を見つけて、にやりとしましたよ(笑)。

いや〜(笑ってごまかす)、自分の名前もだしてますよ。一度読んで終わりじゃなくて、絵を何度も見て楽しんでもらえるような絵本にしたかったので。読者の方にも、そんな風に楽しんでいただけると嬉しいです。


講談社フェーマススクールズ

——さて、新人賞に応募したとき考えていたことと、実際に本作りを終わってみて、違いがありましたか?

地方に住んでいるので、何度も上京して打ち合わせするのかな、たいへんかなと思っていたんですけど、メールと電話で意外にスムーズにできたなあと。(東京との)距離がハンデにならずにすむんだなとわかったのが大きいです。
それに、アイデアをだしてもらえるんでびっくりしました。まえに絵本塾にいっていたときは、「あなたは絵本作家なんだから、あなたが考えなさい。」というのが徹底していたので。
編集さんのアイデアに対して、「じゃあ、こんなのでは?」とこっちも返したり、装丁のことも含めて、映画みたいに、いろんな方との共同作業で作れたのが楽しかったです。
それから、もっと、もっと描き直しが多いかと思って身構えていたんです。半分くらい描き直しかなと。

——そうですか、もっとお願いしてもよかったんですね。じゃあ、その分の描き直しは次回にとっておきましょう(笑)。でも、なんだかんだと、けっこう描き直していただきましたよ。

そんなこと言いつつ、時間の余裕はまったくなかったです(笑)。

——さて、ここからは『あっぱれ! てるてる王子』という作品についてお伺いします。この本の主人公、てるてる王子は、子どもたちのために天気を晴れにするのが仕事。それで、近づいてきた台風18号の台風殿下と交渉をはじめる……こうやって言葉にすると、とてもシュールな話ですが、どこから発想されたんでしょうか。

もともと雲を眺めているのが好きというのはあったんです。
ある日、細長い雲、さや雲っていうんですが、をながめていたら、それが飛行船に見えた。雲の船が連なって飛んでいるように見えたんですね。それで、雲の世界の住人がいて、旅をしているというのが、ファーストアイデアです。

——それは、いつ頃の話ですか?

10年ぐらいまえです。略歴にも書いたのですが、当時は童話を志向していたので、雲の住人どうしのいさかいがあって、また平和になってというようなファンタジーを書こうとしたんですが、描写がむずかしくて上手くいかなかったんですよ。さし絵を多用した形の本も考えたんですが、そういう作品は公募もあまりないし。それで、7年まえに初心に帰って絵本にしようと思い直したんです。

——もともと絵本作家志望でもあったんですか?

学生の頃、絵本作家になりたいとは思いましたが、書店にならんでいる絵本、とくに海外の絵本を見て、とてもこんなのは自分に描けないと断念しました。けれど、ファンタジーを書いて煮詰まっていたとき、頼まれて絵のカットを書いたんですが、評判がよかった。この絵が好きだと言ってくれる人もいるのだからと絵本でやってみようと思ったんです。それで、さきほどから話している絵本塾に行き始めました。じつは「てるてる王子」の話はそのとき一度、原画に起こしました。

——評判はどうだったんですか?

一人だけ出版社の人にも見てもらったんですけど、悪いとも言われませんでしたが、出版するとも言われませんでした。それに、そのときは自分にぴったりあった画材、紙やインクが見つけられなくて、塗りがまったく気に入りませんでした。今も、まあ上手くはないんですが。それに台風の造形も気に入らなくて。ストーリーについても悩んで、けっきょく止めてしまいました。

——それを再び書こうとお思いになったのは、なにかきっかけがあるのでしょうか?

やはり、『マッコークジラ号、発進せよ!』という作品で、一昨年の講談社絵本新人賞で佳作に入ったことが大きいです。

8月に佳作入選のご連絡をいただいて、これが本にしてもらえるかな、というあわい期待もあったのですが、計算すると、つぎの新人賞に応募するには、もう9月から描き始めないと間に合わない。それで、「てるてる王子」の構想を固め始めました。
それで、台風殿下を下町の工場長のイメージにすることを思いついたんです。ちょっと赤ら顔の、よくいる頑固おやじですね。だから、この台風も、たくさんの雲の住人が働いてますが、工場のイメージなんですよ。よく見るとトタンがはがれていたりして。

——へえ、それは気がつきませんでした。面白いですね。わたしが、思ったのは、てるてる王子の、あっぱれ号での会議のシーン。まじめなのは一部で、ノートに落書きしてるやつもいて、あの、だれている感じって……。コマヤスさんご自身は、とても固い職場にお勤めなさっていますが。

くだらない会議をやっとるわって、職場でのわたしの心象風景がもろにでていますね(笑)。
大人っぽいですけど。

——いや、その感じよくわかります(笑)。絵本の読者の半分は大人ですから。子どもに読んでやっていて、にやりとする思いますよ。でも、お仕事すごくいそがしいですよね。イメージとしては、夕方5時半ぐらいに終わるのかなと思っていたんですが、8時とかにご連絡しても仕事場だったり、夜中にもなるとおっしゃってましたね。どんな風にお描きになってらしたんでしょうか?

(以下、次回に続く。仕事で忙しい中で、どのように自分の夢を実現していかれたか、今年の応募者への具体的なアドバイスを中心にお伝えします。 記/ほろほろ鳥)


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