わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
番外編・こんな絵本が読みたい! 全国訪問おはなし隊より

番外編・こんな絵本が読みたい! 全国訪問おはなし隊より

——まず、読者のみなさんのために簡単に「おはなし隊」とは何か、普段どういうお仕事をしているのかを話してもらいたいのですが。

そうですね。正式には「本とあそぼう 全国訪問おなはし隊」というんですが、1999年7月にスタートしました。この年がちょうど講談社の創業90周年で、その記念事業でした。以来ずっと、約550冊の各社の絵本を積んだ2台のキャラバンカーで、各都道府県を1か月単位で巡回し、月間およそ100の幼稚園、保育園、小学校、書店などを訪問して“おはなし会”を行っています。
活動も11年目に入り、キャラバンカーは全国6周目、おはなし会の総回数は1万2300回を超えました。

キャラバンカー

この仕事をおはなし隊の立ち上げの時から担当していますから、11年間で、全国の500カ所ほどの会場を見てきましたでしょうか。毎月、現地で読みきかせを行ってくれるボランティアさんと、読みきかせについての勉強会も開いています。立場上、他社の絵本を含め、いろんな絵本を見たり、紹介されたりする機会が多いですね。

——おはなし会の現場で、子どもたちの反応をリアルに感じ取る立場にいらっしゃるんですね。
では、おはなし隊の立場から見て、率直に講談社の絵本新人賞はどうでしょう?

講談社の絵本新人賞は、とてもレベルが高いと思います。受賞されてから、第一線で活躍されている方も多くいらっしゃいますし、みなさん絵のレベルも高いのだと思います。
ただ、おはなし隊の読みきかせという立場からすると、ちょっと年齢の高い子に向けた作品が多いかなと。もっと幼児向けのものがあってもいいと思います。
おはなし会の現場では、小さい読者の年齢に合わせて本を選ぶんですね。小さい子が楽しめる絵本は、大きい子も楽しめるけど、大きい子に向けて描かれた絵本は、小さい子は理解できませんから。

——幼児向けのものですね。新人賞の作家の方で、おはなし隊で人気がある方や、人気がある作品はありますか?

2005年に新人賞を受賞されたかがくいひろしさんの『おもちのきもち』をはじめとする、『もくもくやかん』『みみかきめいじん』(すべて、講談社)などは、とても人気がありますが、より幼児向けの『だるまさんが』(ブロンズ新社)は、とてもおはなし会に向いているように思います。「おはなし隊の読みきかせランキング」でも、いっきに上位に入ってきました。


講談社フェーマススクールズ

——かがくいくさんは、本当に人気がありますね。他に、おはなし会の現場では、どんな絵本が人気がありますか?

わかりやすくて、シンプルな絵本が人気があります。そして、読後感がいいものが求められます。

——例えば?

おしり『おしり』(三浦太郎 作/講談社)は、年齢を問わず、どこで読んでも必ず笑いがおこる絵本です。「あひるさんの ふわふわ」「おしり」「ぶたさんの まあるい」「おしり」とあたりまえのことを表現して、くりかえしているだけなんだけど、子どもたちは、声をあげてケタケタ笑ってくれます。

あしたうちにねこがくるの『あしたうちにねこがくるの』(石津ちひろ 文、ささめやゆき 絵/講談社)も、とても人気があります。身近なテーマでありながら、夢があふれている絵本です。お話の流れが、思った通りに進んでいく楽しさと、いい意味で裏切られる楽しさとがあるんですね。でも、最後には、「ホッ」とする安心感もあります。文と絵のバランスが最高です。

——どちらの本も納得です。お話を聞いて、子どもたちがどの場面で笑うのか、なんとなく想像できます。どちらの本も絵本の技法でよくもちいられる「くりかえし」が使われているお話ですが、おはなし会には、やはりくりかえしの絵本が向いているのでしょうか。 ストーリー的にはどのような作品が好まれますか?

いいお話というのは、「行きて帰りし物語」とよく言われますが、読みきかせに向いているのもそういったお話だと思います。読み終わったあとに、ストンと落ちつくお話ですね。お話の結末が、すっきりしないと、消化不良に終わってしまいます。そして、入り口はせまくても、広がりがあるお話。小さい子でも楽しめるものでもいいですね。

——絵的にはどういう絵が好まれますか?

おはなし会では、絵の上手い下手というのはそれほど関係がないと思います。
ただ、アニメチックな絵はあまり好かれませんし、繊細な絵もおはなし会には向きません。お話と同様に、シンプルな色づかい、輪かくのはっきりしたもの、そして力強い絵が多いように思います。

ショコラちゃんのおでかけドライブ『ショコラちゃんのおでかけドライブ』は、おはなし隊では、オリジナルの大型紙芝居で使用していますが、読みきかせにも向いています。「動物」「食べ物」「車(乗り物)」といった子どもが好きな3つのものの要素が入っていて、小さい子に向けられた作品だと思います。絵も、色づかいがすばらしく、子どもに伝わりやすいです。

——お話の長さはどうですか?

幼稚園、保育園では、3〜4分の本。小学校では、5〜6分ぐらいで読める本を大体選んでいます。テキスト量の多いものは、選ばれにくいです。ページでいうと、24ページくらいまでのもの(11場面)だと、読みきかせには、ぴったりです。

——そうなんですね。昨年も、編集部内の座談会で、出来上がった作品を読みきかせしてみるといいという話が出ましたが、やはり、作品が出来上がったら、一度声に出して読んでみるといいですね。

——では、最後に、新人賞を目指して作品作りをされている方に、一言お願いします。

おはなし隊では、小さい子でも楽しめる絵本を求めています。よけいなものをそぎ落として、シンプルであり、強く訴えかけるものを目指してほしいと思います。それは、より作るのがむずかしいと思いますけど、これができると読みきかせの頻度と広がりはぜんぜん違います。絵本新人賞の事務局にも、アート的な絵本だけでなくぜひ、子どもの目線に立ってお話を作ってほしいと思います。新たなる作品を楽しみにしています。

——ありがとうございました。“読みきかせ”という立場からお話を聞きましたが、私たちにとっても、とても参考になります。新人賞に応募される方も。ぜひ作品づくりに生かしてみてください。(ほろほろ鳥&Kan)


番外編・こんな絵本が読みたい! 編集部座談会(前編)
番外編・こんな絵本が読みたい! 編集部座談会(後編)
番外編・こんな絵本が読みたい! 全国訪問おはなし隊より
番外編・書籍販売部担当Tに聞きました
第30回講談社絵本新人賞受賞・藤本ともひこさんの場合(前編)
第30回講談社絵本新人賞受賞・藤本ともひこさんの場合(後編)
第30回講談社絵本新人賞佳作受賞・シゲタサヤカさんの場合(前編)
第30回講談社絵本新人賞佳作受賞・シゲタサヤカさんの場合(後編)
第30回講談社絵本新人賞受賞者・コマヤスカンさんの場合(前編)
第30回講談社絵本新人賞受賞者・コマヤスカンさんの場合(後編)
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第5回講談社絵本新人賞受賞者・野村たかあきさんの場合(後編)
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第18回講談社絵本新人賞受賞者・笹尾としかずさんの場合(後編)
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第29回講談社絵本新人賞受賞者・にしもとやすこさんの場合(後編)
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