——それから「絵本新人賞」に出会うわけですね。
「小説すばる」で絵つきコラムを半年連載していたんです。それを「週刊現代」の編集者が見て、カットを依頼してきてくれました。そのとき彼に、ジャズの絵本の原稿を見てもらったんですね。そうしたら幼児図書出版部に紹介してくれて、さらにそこで「新人賞」を紹介されたわけです。
——これから新人賞をめざす方々に大変興味のあるところだと思いますが、受賞作『ハワイの3にんぐみ』はどのようにしてでき上がったのでしょうか? 「ハワイ」というモチーフにこだわりをお持ちなんですね?
そう。ハワイは大好きなんです。古いハワイ、それにハワイの音楽が好きです。なんか、すき間だらけっていう感じが。風にのって流れてくるでしょ、ハワイの音楽は。
それで、ハワイと日本の関係の歴史を勉強して、ふたつの民族の間には、いろいろ共通点があるなと思っているんです。八百万の神を崇めたり、もともと文字を持たない伝承文化だったりとかね。調べれば調べるほど好きになった。
だから自分に描けるテーマとしてハワイを選んだ、というのがまず出発点ですね。次に、人じゃなくて動物を主人公にして描きたい、という気持ちも最初からありました。
『ハワイの3にんぐみ』
1997年6月刊
第18回講談社絵本新人賞受賞作品
ハワイの小さな島に住む3にんぐみ —— ブタのカマカニ、ウマのカイリ、ヤギのアロハのおはなし。かれらが得意の音楽を奏でると、いつも、魚たちは集い、鳥たちは歌い、風は空を舞うのでした。ある日、丸焼きにされそうになったカマカニを、ヤギのアロハは魚をたくさん差し出して助け、カウボーイにつかまったカイリを、カマカニは、牛の番をするたくさんの鳥たちと交換し、浜で天気の見張り番にされてしまったアロハを助けるために、カイリは風をすべてすいこんでしまいます。なんにもなくなってしまった島。もうかれらの音楽をきいてくれるものは誰もいませんでした。(現在絶版) |
——子ども目線でお描きになったはじめての作品ですか?
そうです。
——ご苦労はありましたか?
それが、そうでもなかったんです。当時、自分の子どもが幼稚園に入る前で、3歳。僕は家にいる時間が長かったから、子どもと関わることもたくさんできたんですね。いっしょに公園にいって、虫をさがしている息子といっしょに、地面を眺めたり。5時になると「おかあさんといっしょ」を見たり。だから、子どもの絵本ははじめてだったけど、その点は苦労していないんです(笑)。
——おはなしの構成は、ぱぱっと決まったんですか?
実は、描こうと思ったら風邪をひいて、3日間寝てしまったんです。構成というか、骨組みは、そのあいだに考えました。「3にんぐみ」はトミー・アンゲラー『すてきな三にんぐみ』(偕成社、訳=いまえ よしとも)がヒントになった、というのはあります。そして、ハワイの音楽は風を感じる、というところから、風を感じなくなったらダメということを思いついたわけです。
——で、一気に完成まで?
そう。とにかく、もう時間との戦い。ラフは3〜4日、本画は15日!
——1回めの応募でいきなり受賞、デビューという華々しさでした。秘訣はなんだったのでしょう?
そんなの自分じゃわからないですよ(笑)。でも、いくつかこだわりはあったかな。まず、他の人の作品を研究しなかった。次にかわいい絵にしなかった。
——子どもに迎合しなかった、ということですか?
そうそう。それに、勢いが大事だと思ったから、いろいろ練り直さず、勢いで描こうと。まあ、これは時間がなかったからもあるけど(笑)。
——いろいろなお仕事をされているなかで、今、笹尾さんにとって絵本という仕事の位置づけはどういうものですか?
「音楽」と「絵本」は、僕にとっては“幹”の部分。実情は難しかったりするけどね。大事な柱なんです。
——ありがとうございました。
来月は受賞から出版への経緯、その後のお仕事について、そして絵本作家を目指す方々へのアドヴァイスを掲載します。乞うご期待!
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