わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
青山邦彦さんの場合・後編

第17回講談社絵本新人賞佳作受賞者・青山邦彦さんの場合(後編)
青山邦彦(あおやま くにひこ)
1965年6月15日、東京で生まれる。早稲田大学理工学部建築学科卒業、同大学院修士課程修了後の1991年に、建築設計事務所に入社。1995年に独立、絵本を描きはじめる。同年、『ピエロのまち』で第17回講談社絵本新人賞佳作受賞。おもな作品に、『こびとのまち』『おんがくのまち』『ねじまき鳩がとぶ』(いずれもパロル舎)、『ぼくたちのまちづくり 全4冊』(福川裕一氏との共著・岩波書店)、『ドワーフじいさんのいえづくり』『いたずらゴブリンのしろ』(いずれもフレーベル館)、『おおきなやかたのものがたり』(PHP研究所)、『むしのおんがくがっこう』(あかね書房)など。『ぼくたちのまちづくり』で、日本都市計画学会石川賞を受賞。2002年ボローニャ国際絵本原画展ノンフィクション部門入選。第20回ブラティスラバ世界絵本原画展(BIB)出展。

『サバンナの とけい』誕生秘話

——講談社から出ている『サバンナの とけい』は、ダイナミックな展開が楽しい絵本です。これは、最初、ほかの出版社から出る予定だったとか。

 そうなんです。これは、ある出版社から依頼されて幼児向けに描いた作品でした。ところが最終的な企画会議で没になってしまったんです。“時計”という概念が幼児にむずかしいんじゃないかって。まったく予想しない展開でした。『こびとのまち』でデビューして4作目、はじめて依頼がきた絵本だったのに、喜びも束の間、今度は別の出版社に売り込まなければいけないはめになってしまって。


——それで講談社に持ち込まれたわけですね。

 はい。原画を見てもらって、「では、うちから出しましょう」と、言ってもらえましたけど、私が新人賞で佳作を獲っていたって、講談社の人は誰も憶えてませんでした。受賞しても売り込みには関係ないんですね。


——い、いや、関係ないなんてことは……。「佳作」で実力は証明されていたわけですから。
それはそうと、とにかく本として出版したかった?


 もちろんです。そのつもりで描いてましたから。だから、必ずどこかから出すぞ、と。


——そして、はじめての依頼作品『サバンナの とけい』は、いよいよ講談社から刊行されました。中に登場するふたつの舞台——サバンナと都会の街が対照的ですね。

 実は、絵のタッチをどうしようか迷いました。とくに街をかっこよく描きたい、と考えていたのですが、大胆に勢いよく描くのか、それとも緻密に描くのか? 悩んだ末、後者になりました。



講談社フェーマススクールズ

『サバンナの
とけい』

その後の“青山スタイル”を決定づける仕事ぶりが、この見開きに!

——『決定版 夢をそだてる みんなの 仕事101』の口絵に通じるものがありますね。



『決定版
夢をそだてる
みんなの仕事101』


101種類の職業がすべて描かれています。
「5000人は描く、っておっしゃってましよね?」
「そうでしたっけ?」


「世界遺産」の仕事が来た!

——そして、青山さんの絵の魅力が存分に発揮されたのが「世界遺産」でした。

 「世界遺産」の仕事は、『サバンナの とけい』の出版準備をしている頃来ました。いつにも増してきっちり描かなければいけないというプレッシャーがありました。ただ、ペンで描き込んで水彩で色を付けるといった、単に色分け程度に色を塗っていていいんだろうか、もっとちがうテクニックがあるんじゃないかと悩みました。これまで、水彩のみならず絵の勉強をしたことがなかったので、単純に絵を習いに行きたい、と思いました。

「週刊ユネスコ世界遺産」2000年10月〜2002年11月全100巻刊行
世界遺産を1回ひとつずつ紹介した週刊パートワーク誌。

——プロの絵本作家が絵を習いに行ったんですね。

 はい。ちょうどタイミングよく、区民のための水彩画講座の募集があったので、受講しました。でも、先生から「うまいね」って言われたきり、何も言われなくなってしまいました。


——せっかく習いに行ったのに?

 ええ、でも、しばらくしてわかったのですが、絵を描くのに深く考えなくていい、好きに描いていい、ということだったようです。それは収穫でした。


——「世界遺産」の仕事は面白かったですか?

 はい。縦割りの断面はやってみたかったですから。大聖堂の断面とか、西洋の大建築を断面で見せるという表現はいっぱいあるんです。建築のプレゼンテーションの方法論のひとつです。でも、そこに人がいて、いろんなことをしている、っていうのは、建築のカテゴリーではありえないわけです。空間を見せるのと、人の営みを見せるのとは全然違います。建物は主役じゃない、主役は人なんですね。そういう点でこれは面白い仕事でした。

週刊ユネスコ世界遺産 第87号 城壁都市シバーム/サナアの旧市街
『週刊ユネスコ世界遺産 第87号
城壁都市シバーム/サナアの旧市街』

ファンタジーは建築現場に

——講談社絵本新人賞応募作品の『ピエロのまち』は出版されなかったのですが、デビュー作の『こびとのまち』も、同じく建築現場を舞台にした作品でした。

 これは素材として温めていたわけではなくて、大きな建築現場で、日頃うすうす感じてたことを描いたんです。現場は非日常を感じる場所。家の中の隙間、たとえば屋根裏の空間や柱と柱の間に、何かいるような気がするわけですよ。自然にそういうことを感じてました。それをそのまま描いたんです。


——最後に「講談社絵本新人賞」を、そして絵本作家を目指す人たちにアドバイスをお願いします。

 「本にするんだ」という目的を忘れないこと。絵を描き、ストーリーを作り、そして、それをどういう形態にしようかなと考えたときそれが絵本だった、っていうのがいいですよね、いい作品ができる。殻から攻めていくとつらいじゃないですか。まず絵本新人賞に出すんだ、っていうのは殻から行ってますよね。こういうのが描けそうだから新人賞行ってみるか、っていうときが、いい作品にもなるし、いい結果にも結びつくんじゃないでしょうか。


——青山さんご自身は“傾向と対策”はなかった?

 なかったですよ。正直いうと、ちょっと試みはしました、でも形にならなかった。描きたいものしか描けませんでした。


——巧まず、自分の中にあるものを描きなさい、絵本という形態がフィットするならば、ということでしょうか?

 大事なのは「やりたい気持ち」だけです。楽しくやる、楽しみを見出しながらやるのが大事だと、私自身は思っています。


——今回は長時間ありがとうございました。



 「講談社絵本新人賞」佳作受賞をきっかけに、2作めをほかの出版社から出してデビューを飾り、また、さらに別の出版社から依頼された作品を講談社から出すことになる、という数奇な運命をたどった青山邦彦さん。自分の表現媒体は絵本である、という結論に至るまでの模索の道のり、またそれ以降の努力と、ある意味での戦いが、青山さんの作品を輝かせていることはいうまでもありません。「講談社絵本新人賞」を目指すみなさんも、ぜひ後に続いてください!



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