わたしはこうして獲りました!
絵本新人賞インタビュー
コマヤスカンさんの場合・後編

第30回講談社絵本新人賞受賞者 コマヤスカンさんの場合(後編)
コマヤスカン
10歳の時に「スター・ウォーズ」に感化され、SFイラストを書きはじめる。愛知大学文学部で社会学を専攻するかたわら、美術部に所属し、洋画・ペン画の制作に没頭する。この頃、ガブリエル・バンサン作『アンジュール』(ブックローン出版刊)に出会い、ショックを受ける。その後、ライナー・チムニク作『クレーン男』(パロル舎刊)の影響を受け、童話作家を目指すも挫折。34歳にして、絵本作家になることを決意し、「子どもの本の専門店 メリーゴーランド」絵本塾に入塾、絵本作りを学ぶ。第29回講談社絵本新人賞佳作に入賞。そして、本作(応募時のタイトルは『てるてる王子 南へ』)で第30回講談社絵本新人賞を受賞し、悲願のデビューを果たす。

——さて、コマヤスカンさんが、絵本作家を志してから、実際に実現するまで7年という月日を要したということですが、仕事をしながらどういう風に作品を作っていらしたのですか?

仕事からの帰宅時間が早くても夜の8時半ごろでしたので、そこから、食事して、風呂に入って、雑用をすましていると、作品の作成にとりかかるのが、10時半すぎくらいになります。それから、2時間程度集中して描くような感じでした。

—— それで、よく続きましたね。新人賞の応募のときは、しめきりから逆算したとおっしゃってましたけど、計画通りやるのって簡単なことではないですよ。

応募作を描いていたときは、通勤時間が長くて、しかも仕事も忙しかったんですよ。
ですから、仕事の帰りが遅い日でも、たとえ少しでもいいから描けるようにと画稿を机の上に置いたままにして、嫌でも目につくようにしていました。描く時間は、ほんの10分でもいいんです。描かない日を作ってしまうとよくないですね。それがコツでしょうか。

—— それは、絵本に限らず、仕事をもちながら、何かをやろうというときには通じることかもしれませんね。参考になります。でも、それで時間足りましたか?

いや、最後は、ほんとうに時間がなくなってたいへんでした。わたしの場合、まず下絵を細部まで仕上げておいて、それを元に原画にトレースするという作業を踏んでから、ペン入れをして、最後に水彩インクで塗っていくので、時間がかかるんですよね。

—— これだけ細かく描いていると塗るのもたいへんだと思いますよ。パノラマのシーンも多いし。

もちろん休日にも描いて、一気に作業を進めるのですが、なんだかんだと用事もあったりしますし。そうなると、睡眠時間をけずるしかないですね。それで、追い込みのときは、ほとんどもうろうとしながら色を塗っていたような状態でした(苦笑)。


講談社フェーマススクールズ

——あと、台風の造形にも苦心したとおっしゃっていましたね。

そうですね。でも実のところ台風って、ふつうは見えないないものじゃないですか。もちろん人工衛星からの写真はありますけど、通常は、形としてとらえることのできないものを描くわけですよね。それが、なんとか自分でなっとくできる形にできたときには、この作品で行こうと思いました。

——文では、どんな工夫をされましたか?

娘たちや妻に読み聞かせをして意見をきいてましたね。
いや、けっこう編集者の人より、厳しい意見をいうんです。それから自分で、声に出して何度も読みました。絵本の文は、リズムが大事ですよね。繰り返し読んでいると、まわりくどい表現や無駄なことばに気づくので、どんどん、いらないところを切りました。

——それでも、本にするときには、文をかなり削りましたよね。

はい、それから文字の入るスペースも自分では、ずいぶん余裕をとったつもりだったんですけど。ぜんぜん足りなかったので、これは相当気をつけないといかんなあと。

——実際に刊行するときは、漢字をひらがなに変えたり、わかち書きにしたりしますので、余裕をみておくのにこしたことはないですね。さて、技術的なことをお聞きしましたが、心構えというか精神的なことではどうでしょう。

物語を作っていたり、ラフを描いているときなど、行き詰まることは、必ずあるんですよ。そういうときは、いったん寝かしておくとようにして、別の作品にとりかかります。いったん、離れてしまうと、見方が変わるんです。いつもいくつかアイデアを温めておくようにしているのが大事ですね。

——なるほど。すごく実践的ですね。ところで「てるてる王子」は、今後どうなるんでしょうか?

「てるてる王子」が、みなさんに気に入ってもらえたのなら、続編を書きたいですね。
季節を変えて、オチはまったく別の形にして。もう腹案はあるんですよ。
それから、まったく別のタイプの作品で、女の子が手にとっていじらしいと思ってもらえるようなものも作りたいですね。自分の娘に楽しんでもらいたい気持ちも強いんです。レトロSFみたいなのもいいなあ。お父さんが大声出して、読めるようなのです。

——そのアイデアを見せて頂くのが楽しみです。さて、最後にこれから講談社絵本新人賞に応募される方へメッセージをお願いいたします。

講談社絵本新人賞について言うと、私の作品のような荒唐無稽なものでも賞をいただけたということでもわかるように、寛大というか、間口が広い。きちんと審査してくれます。
こういうテーマの方がよいとか、画風がどうとかなんてことにとらわれずに、自分の描きたいものを、好きなように描かれたらいいと思いますよ。絵本塾に通っている時、ぼく自身が言われたことですけど、心に残っている言葉があります。それは、「絵本作家になると決めたときから、あなたは絵本作家です。」ということ。だから、あなたも自信とプライドをもって描いていってください。

——どうもありがとうございました。(聞き手/ほろほろ鳥)


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